三ノ宮駅の怖い話
これは兵庫県神戸市にあるJR三ノ宮駅でイギリス人のEさんが体験した怖い話。
Eさんは女子大学生で弁護士の父親の休暇を利用して家族で日本に旅行に来ていた。
東京、京都と観光をして昨日は有馬温泉に宿泊し、今日は神戸を観光して姫路城に向かう予定だった。
Eさんは日本語がさっぱりわからなかったが、身振り手振りでなんとかなったし、大抵のことは「YES,YES」と笑っていれば乗り切れた。
2週間の滞在なので持ってきたのは大型のキャリーケースだ。観光をする前に駅のコインロッカーにキャリーケースを預けるのが毎日の恒例になっていた。
その日、Eさん一家はJRの三ノ宮駅のコインロッカーを使うことにした。
まだ朝早かったので、大型のコインロッカーもかなり空いていた。
Eさんが、重たいキャリーケースを持ち上げて、ロッカーに詰め込んでいると、ふと視界の隅で動くものがあった。
5歳くらいの男の子がパタパタと駆け回っている。
すると、次の瞬間、目を疑う出来事が起きた。
男の子はまっすぐコインロッカーの方へ駆けてきたかと思ったら、大型ロッカーを開けて中に入ってしまったのだ。
大きなキャリーケースが入るスペースがあるので5歳くらいの男の子が入るのはわけない。
しかし、遊びにしても、何かあったらどうするのだろう。
男の子の親はどこへいるのだろうか。
Eさんは、辺りを見回したが、それらしい人はいない。
Eさんは、危ないから出たほうがいいと声をかけようと思って、男の子が入ったロッカーを開けようとしたが、中から押さえているのかロッカーが開かない。
英語で呼びかけてみるが男の子が聞き取れるとは思えない。
ロッカーに耳をつけると、男の子も何やら日本語で話しているようだが、Eさんには聞き取れなかった。
Eさんは、すでに荷物を入れ終わり電車の確認をしていた両親を呼びにいった。
事情を説明すると、両親が駅員さんに英語で説明してくれ、なんとかわかってもらえた。
ところが、駅員さんと両親を連れて戻り、男の子が入ったロッカーを確認してみると、ロッカーはすんなりと開いて、中に男の子の姿はなかった。
目を離した隙に出ていったのか。
とにかく問題ないことがわかって、駅員さんにお礼を言って、Eさんと両親はその日の観光に向かうことにした。
午前中は三宮周辺を観光し、午後は電車で姫路に移動して世界遺産の姫路城を見て回った。
再び三ノ宮駅に戻ってきたのは20時過ぎだった。
Eさんは電子パネルでロックを解錠して、キャリーケースを預けていたロッカーを開け、唖然とした。
キャリーケースが入っていなかったのだ。
何度もロッカー番号を確認したので、ロッカーに間違いはない。
ありえない状況にEさんはパニックになりかけ、わけがわからず周囲の空いているロッカーのドアを確認していくと、ふいに小さな男の子の笑い声が聞こえた。
それも、ロッカーの中から、、、
Eさんは今朝の出来事を思い出し、恐る恐る声がしたロッカーを開けた。
驚いたことに、Eさんのキャリーケースが中に入っていた。
理由はわからないが、とにかくキャリーケースがあったことに安堵して取り出そうとして、Eさんは、ロッカーの奥の暗闇からこちらを覗く光る目に気づいた。
朝の男の子がロッカーの奥に潜み、ジッとEさんを見ていたのだ。
Eさんはすぐにキャリーケースを引っ張り出そうとしたが全然動かない。
男の子が奥からキャリーケースを小さな手で押さえているようだ。
子供とは思えない強い力でまるでビクともしない。
男の子はEさんに向かって日本語で何やら語りかけてきたが、Eさんは男の子が何を言っているのかわからなかった。
パニックと恐怖でEさんは「NO!」と叫んで目一杯の力でキャリーケースを引っ張った。
途端に、押さえていた力がなくなり、キャリーケースがスルスルッととロッカーから出てきて、Eさんは弾みで尻餅をついた。
ハッとロッカーの奥に目を向けると、男の子の姿はなくなっていた。
慌てて、離れたロッカーで荷物を回収していた両親と合流し、今あった出来事を説明すると、疲れて幻でも見たのだろうと笑われてしまった。
Eさんは、そんなわけがない、確かに見たのだと怒ったけど、両親はまるで信じてくれなかった。
一体、あの子はなんだったのか。
日本からイギリスに帰ってもEさんの心には悶々としたものが残った。
日本語だったからわからなかったけど、あの時、男の子はEさんに何か語りかけていた。
なんて言っていたのだろう。
気になったEさんは日本からの留学生に相談してみた。
男の子がしゃべっていた音を頼りに、日本語ではどういう意味なのか尋ねたのだ。
「バッグを返したら、ずっと一緒にいてくれる?」
留学生はそういう意味だと英語で教えてくれた。
それを聞いてEさんはゾッとした。
あの時は恐怖から「No!」と叫んだけど、言葉の意味がわからぬまま、軽い気持ちで「YES」と答えていたら、果たしてEさんはどうなっていたのだろうか、、、。
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