【怖い話】見えるとつらいよ

2021/02/14

Aさんは、38歳独身の男性。
都内の某企業に勤める会社員だ。
小さい時から霊感が強かったAさんの望みは普通に生きること。
周りの人たちに変な目で見られるのが嫌で、かたくなに霊が見えることを隠して生きてきた。
しかし、ふとした時、見えてしまうせいで生きづらさを感じることがあるという。

そんなAさんのエピソードをいくつか紹介しよう。

会社でのオンライン会議でのできごと。
企画を説明する後輩男性の後ろから小さな男の子が画面を覗き込んでいた。
「今映ったの◯◯くんのお子さん?何歳?」
ふいに後輩の家庭的な顔が見れて、Aさんはニコニコと言った。
すると、なぜか後輩男性は怪訝な表情をした。
「あの、僕、結婚してませんけど、、、」
見間違いだったとすぐに謝ったけど、その後の会議は終始、おかしな空気が漂っていたという。

また、ある時の営業先での出来事。
Aさんは、営業先の企業から駅に向かって歩いていた。
はじめて訪れる土地だったけど、人通りが割と多い雑居ビル群だったので、他の人が向かう方向に一緒に歩いていけば駅に到着するだろうと思っていた。
いくつかの角を曲がって、そろそろ駅につくかなと思ったら、行き止まりに出てしまった。
直前まで前を歩いていたはずの集団はいつのまにかいなくなっていた。
スマホで調べたところ、駅からは逆に離れた方向に向かっていて、行き止まりの壁の向こうは墓地だったという。

また、ある時の出来事。
Aさんの趣味はカメラで、散歩しながら風景を撮影するのが好きだった。
休みに近所を散歩していて、公園に植えられた木に向けてシャッターを切ったら、木の下で佇む女性がいるのに後で気がついた。
これがなかなかの美人さん。
故意ではないとはいえ盗撮と疑われないかハラハラしながら、撮影データをチェックすると、なぜか女性の姿だけ写真に写っていない。
データと女性の姿を見比べていると、女性と目が合った。
Aさんに気づいた女性は、ツカツカとAさんの方に向かってきた。
女性は真っ白い顔で見開いた目をしていて、Aさん目指してズンズン距離を縮めてくる。
Aさんは慌ててその場を逃げ出した。

また、ある時はこんなこともあった。
人混みを歩いていると、後ろからスーツを引っ張られた。
ん?と振り返ってみても、引っ張った人の姿はない。
気を取り直して再び歩き出すと、しばらくして、またスーツを引っ張られた。
振り返っても、それらしき人はいない。
歩き始めると、また引っ張られる。
あぁ、これは生きた人じゃないなと無視を決め込むことにしたら、今度は髪を引っ張られた。
それでも相手をしないでズンズン歩いていき、ようやく目的地のビルに到着した。
はじめて会うクライアントの女性にかしこまって挨拶をすると、なぜかクスクス笑われた。
「Aさん、あいてます」
女性は、Aさんのズボンを申し訳なさそうに指さす。
見ると、社会の窓がこれでもかと全開だった。
相手をしなかった霊の仕業だとAさんは思ったという。

また、見えるがゆえに損をしたエピソードもある。
独身で彼女もいないAさんのために友人が合コンをセッティングしてくれたことがあった。
口ベタのAさんはあまりうまくしゃべれず、普通に飲んで合コンはお開きとなってしまった。
トボトボと帰り道を歩いていると、合コン会場にいた女性の1人と偶然、駅のホームで鉢合わせた。
Aさんは「どうも」と会釈をしてそのままスタスタと歩いていったのだけど、その女性はAさんの後についてきて、同じ車両に乗り込んだ。
何かしゃべったほうがいいのかと思ったけど、女性の方も何もしゃべらない。
そうこうしているうちに、乗り換えの駅についた。
Aさんが降りると、その女性も後をついて降りてきた。
同じ方面なのだろうか。
それにしても、なぜ何も話しかけてこないのか。
さすがにそれまで散々色々な体験をしてきたAさんは察した。
あぁ、これは連れていったらいけない子だ。
思い返してみても、合コン中、この女の子が喋っていた記憶が一切ない。
それに、なかなか、かわいい。
美人は幽霊。
Aさんの中での法則だった。
どうもさっきの合コンにこの世のものではない女の子が混じっていたらしい。
Aさんは、足早に人波を掻き分けて進んだ。
いきなり角を曲がったり、あえて遠回りをしてみた。
そうして振り返ると、ついてきていた霊はいなくなっていた。振り切れたらしい。
その翌日、合コンをセッティングしてくれた友人から「バカなの?」とLINEがきた。
「せっかくお前のこと気に入ってくれてた子がいたのに、探偵みたいに振り切ったってマジ?」
その時、Aさんはようやく自分の誤解だったことに気がついた。
霊だと思い込んでいた女の子は、Aさんと同じく極度の口ベタだっただけらしい。
せっかくのチャンスを霊感があるせいでふいにしてしまったのだった。

「見えていいことなんか何もないですよ」
Aさんの目下の目標は、"生きた彼女"と出会うことだという。
Aさんの心霊ライフは今日も続いている。

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