【怖い話】同姓同名

 

私はヤマナカタカシと申します。
今年で42歳になります。
建築資材の営業を15年以上やっております。
妻と二人の子供がおります。
ありふれたごく普通の男です。

先日、通勤のバスの中で奇妙な体験をしました。
それについて、今日はお話ししたいと思います。

自宅から会社までバスと徒歩で30分。
毎日、バスの中で新聞を読むのが日課でした。

その日、いつものように新聞を読んでいると、
ふと、1つ前の座席に座った女子高生2人組の会話が耳に入ってきました。
「ヤマナカタカシがさぁ〜」
ふいに自分の名前が呼ばれドキッとしました。
けど、私に女子高生の知り合いはいません。
私の子供達はようやく小学生に上がったばかりです。
同姓同名か・・・。
苗字も名前もそれほど珍しいものではありませんから、
同姓同名にはしばしば遭遇します。
今回もそうだろうと思いました。
「この前、ヤマナカタカシの奴が、コンビニで立ち読みしているところ見かけちゃってさ」
「うわ、最悪!」
私もよくコンビニで雑誌を読んだりするので、
たったそれくらいで陰口を言われるヤマナカ少年の境遇に同情しましたし、
同姓同名だけに、自分が言われているかのような居心地の悪さがありました。
「あ、知ってる?ヤマナカタカシの奴、土曜になると、〇〇川でよく釣りしてるんだよ」
「ヤマナカタカシのくせに釣りとかやってんの?うける」
そう言って大笑いする女子高生の後ろ姿を見ていると、
私はだんだんムカムカしてきました。
ヤマナカタカシのくせに、とはずいぶんな言い方です。
それに奇遇にも、私も休みになると、しばしば釣りに行くのです。
とても他人ごととは思えませんでした。
それにしても、同姓同名だからなのか、
ヤマナカ少年と私はずいぶん趣味も似ていました。
ぜひ一度会ってみたいものだ、そう思いました。

ヤマナカタカシいじりがよほど気に入ったのか女子高生達のおしゃべりはまだ止まりません。
「それにヤマナカタカシって昔、テレビ出たらしいよ」
「嘘だあ」
「ほんとほんと。ローカルだけどね。将棋の天才少年とかって」
「ヤマナカタカシが?あんなハゲが?」
「将棋で頭使い過ぎてハゲたんじゃない?」
「いえてる!」
新聞を持つ手が震えました。
ヤマナカタカシ少年は、
彼女たちの言う通り若くして髪の毛が後退してしまったのでしょうか、
いや、彼女達が話しているのは・・・もしかして、私自身のことなのではないか。
恐ろしい考えが頭に浮かびました。
私は高校生の時、将棋部に入っていて、全国大会の常連でした。
高校2年の時に、たまたま将棋大会を見に来ていたローカルテレビのプロデューサーの目にとまって、テレビ出演をしたこともあるのです。
それに、今では私の頭はすっかり薄くなっております。
同姓同名でだからと言って、ここまでの偶然が重なるものでしょうか。
なぜ、目の前でおしゃべりする彼女たちは、
私のことを話しているのでしょう。
わけがわかりませんでした。

バスが次の停留所でとまりました。
すると、急に女子高生達が静かになりました。
学生服を着た男子がバスに乗り込んできました。
広いおでこ、度の強いメガネ、自信なさそうに背中を丸めた歩き方。
男子学生は私の横を通り過ぎて、一番後ろの席にすわりました。
誰に言われなくてもすぐにわかりました。
彼がヤマナカタカシ少年だと。
女子高生達が忍び笑いをしているので間違いありません。
ヤマナカ少年は、私の若い時に生き写しでした。
他人の空似とは思えませんでした。
ドッペルゲンガー・・・。
自分自身と遭遇してしまうと死ぬという有名な都市伝説を思い出しました。
ドッペルゲンガーが同じ年齢で現れるとは限らないのではないか、
そう思ったのです。

私は怖くなって、次の停留所でバスを降りました。

会社には遅れてしまいますが、仕方ありません。
通りを歩いていると、前方に大勢の野次馬が集まっていました。
何事かと思って近づくと、
電柱に突っ込んで、大破して煙を上げたバスの車体が見えました。
私が先ほどまで乗っていたバスでした。
「ドライバーの居眠りだって」
野次馬の人の話し声が聞こえました。

・・・あのままバスに乗っていたら、私はどうなっていたのでしょうか。
あとで確かめてみると、不思議なことに、バスの乗客の中に、
ヤマナカ少年も女子高生もいなかったことがわかりました。

・・・彼らは一体何者だったのでしょうか。

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