【怖い話】国道N号線
これは、とある国道で、一組の夫婦が体験した怖い話です。国道の名前は仮にN号線とします。
N号線は、いわゆる観光用の道路で、山道に沿ってポツポツとドライブインなんかがある道で、地元の人はあまり使わないですし、夜になると行き交う車も少ない、そんな道でした。
ある冬の夜、N号線をAさんという20代の夫婦が車で走っていました。
Aさん夫婦は結婚して3年目で、記念日に温泉旅行に出かけ、その帰りにN号線を通りかかったのです。
色々と名所を観光してから家路についたので、N号線に入った頃には、すでに日付が変わる時刻でした。
ほぼ走る車もなく、たまに対向車とすれ違う程度です。
お店もなく真っ暗な山道がひたすらと続きます。
薄く霧がかかっているせいもあって、暖房をつけていても少し寒いような感じがしました。
と、ふいに、奥さんが言いました。
「ねぇ、なんか鈴の音が聞こえない?」
言われて、旦那さんが耳を澄ませると、たしかにうっすらシャンシャンと鈴が鳴る音が聞こえる気がしました。
「なんだろう」
音は比較的近くから聞こえます。
ですが、車内に鈴が鳴るようなモノはありません。
シャン...シャン...シャン...
やはり、鈴の音は聞こえます。
一度、気になってしまうと、さっきより明確に、より大きく鈴の音が聞こえるような気もしました。
走る車に合わせるようにテンポよく、シャンシャンシャンと聞こえてきます。
奥さんは身をよじって鈴の音の出所を探しましたが、カバンの中や後部座席の下など、それらしい場所をいくら探しても、鈴は見つかりません。
「どこにも鈴なんてないよ」
「なんだろうこの音」
奥さんが不安そうな顔で見てくるで旦那さんも気がかりになってきました。
気がつくと、ハンドルを握る手に汗が浮かんでいました。
旦那さんは思い切って車を路肩に停め、確認することにしました。
ライトを頼りに、座席の下など車内をくまなく見回しましたが、鈴の音をだすようなものは見当たりませんでした。
「あった?」
「ない」
仕方なく、また車を走らせ出すと、再びシャン...シャン...シャン...と鈴の音が聞こえてきました。
Aさん夫婦は、すっかり気味が悪くなってきました。
真っ暗でひと気のないN号線のせいで、より一層、その気持ちは募ります。
早くN号線を抜けて明るい場所に出ようと旦那さんはスピードを上げて車を走らせました。
すると、しばらくして、十字路に差し掛かりました。
こちら側が優先だったので止まらずにいこうとすると、いきなり、鈴の音が大きくなりました。
ジャリン...ジャリン...ジャリン...!
まるで怒っているかのような音でした。
驚いて旦那さんは十字路の手前で車を急停止させました。
「なにこの音!?」
激しい鈴の音はなかなか鳴り止みませんでした。
「ねぇ、車の下で鳴ってない?」
夫婦は車を降り、ライトで車の下を確認しました。
鈴は確認できませんでしたが、ジャリンジャリンという音は確かに車の下から聞こえてきています。
その時でした。
唐突に鈴の音がピタッと止んだかと思うと、
ウェェェェアェェェェ...
獣の唸り声のような声が聞こえました。
その声は、だんだんと大きくなり、まるで車の下から何かが這い出てこようとしているかのようでした。
夫婦は慌てて車に戻り、逃げるように国道N号線を走り抜けました。
その十字路を通過した後は、鈴の音は一切鳴らず、なにもおかしなことは起きなかったそうです。
後日、調べてわかったことですが、N号線では、その昔、側道を歩いていた登山客が車にはねられ、数百メートル引きずられるという痛ましい事故があったそうです。
Aさん夫婦が車を停めた十字路は、登山客が発見された、まさにその場所だったのです。
亡くなった登山客は熊避けの鈴を身につけていたそうで、事故を起こした加害者は不思議な鈴の音を聞いたと証言したといいます。
Aさん夫婦が聞いたのはもしかしたら、その熊よけの鈴の音だったのかもしれません。
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