【怖い話】1995年のインタビュー

これは1995年に録音されたインタビューを文字起こししたものである。

録音日:1995年12月5日
インタビュー対象:A氏(自営業・男性・50代)

A:
え、もう録音してるの?あ、ほんと。(咳払い)慣れてないから、ちゃんとしゃべれるかどうか。で、なにを話せばいいんだっけ。あ、私の怖い体験か。そんなのインタビューしても面白いの?あんたも変わった人だね。

はいはい、私が今年体験した怖い話ね。
それにしても今年は変な年だったね。
阪神大震災にオウムの地下鉄サリン事件でしょ。
怖いニュースばっかりで参ったよ、ほんと。
気が滅入るよね。
地下鉄サリン事件のニュース速報見た時は、おったまげたね。
いやぁ、びっくりした。
目を疑ったもん。
ほんと嫌な時代だよね。
いや、ほんとに変な年だった。
私は信心深くもないし、風水やら占いやら全然信じちゃいないけどさ、なんかある気がするよね。
時代の流れっていうかさ。気の流れっていうのかね。
あ、誰かが自殺すると、自殺が連鎖するっていうじゃない、そういうの。
なんていうか、悪いことが起きると、別の悪いことが続けて起きるっていうのかな。
ここまで恐ろしいことが続くと、そんなこと考えてしまうよね。
それに、多かれ少なかれ、人ってさ、世間の雰囲気とか事件とかに影響を受けるんだと思うよ、きっと・・・。

話がだいぶ脱線しちゃったね、ごめん、ごめん。
で、私が体験した怖い話なんだけど。
私は、ご覧のとおり、ここでおもちゃ屋をやっているわけだけど。
見ての通り30平米もない小さな店さ。
最近じゃ、チェーン店や量販店なんかでみんなおもちゃを買うでしょ?
こどもも減ってるっていうし、売上はジリ貧でね、数年後には店じまいかな、なんて思ってるんだけど。
まぁ、売上が減っているっていっても、それなりにやることはあって。
毎月毎月新しいおもちゃが発売されるもんだから、仕入れたり在庫管理したり大変でね。
毎日、だいたい夜9時過ぎくらいまでは、店で帳簿つけたり何かしら作業してるんだ。
このあたりは駅からも少し離れてるし、9時になったら、ひと気もなくて、すごく静かでね。
聞こえるのは、犬の遠吠えくらいなもので、私は静かなのが好きだからいいんだけど。

ある日ね、時間はちょうど今と同じ9時少し前くらいだったと思う、店のシャッターを叩く音がするんだよ。
トントンって、ノックするみたいに。
ここら辺は、若ガキが多いから夜中に落書きしたりする連中も多いんだけど、そういう感じじゃなかった。
なんだろうと思って、行ってみたんだ。
「どなたかいませんか?」
シャッターの向こうから若い女の声がした。
「もう店はしめたよ」と私は答えたんだけど、女の人は帰らなかった。
「あの、お願いがありまして、開けていただけませんか?」っていうんだよ。
普段なら断るんだが、丁寧で感じのいいお嬢さんのようだし、困っていそうな声だった。
あ、今、あんたどっかで聞いたことある話だって顔したろ?
飴屋の話だろ?
店がしまった後に飴を買いに来る女のあとをつけたら墓場の赤ん坊に与えていたって怪談・・・。
私もその時、思ったよ。
だから、ちょっと恐々とシャッターをあけたんだ。
けど、開けると誰もいなかった。
通りを見回しても、人っ子一人いない。
あれ?おかしいなと思ったら、シャッターの前にダンボールが置かれているのに気がついた。
そのダンボールには張り紙がしてあった。
『さしあげます』
書き殴ったような字でそう書いてあった。
それを見た瞬間、頭に血がのぼりそうになったね。
いらないガラクタを捨てていきやがったんだと思った。
前にもあったんだ。
または、捨て犬さ。
どっちにしても最悪だ。
私は乱暴にダンボールをあけた。
・・・けどね、中には何も入っていなかったんだ。
なにも。
見間違えじゃないかと思って、よく調べたから確かさ。
あっけにとられるってのはまさにあの時のことだよ。
『さしあげます』って書いてあって、なにも入ってないんだから。
意味がわからなくて、その時は、だいぶ頭にきたさ。
ダンボールはその場ですぐ踏みつぶしてゴミ捨て場に持っていった。
それで、もう仕事する気もなくなって、すぐ家に帰ったんだ。

けど、その日から、おかしなことが始まったんだ。
夜、店をしめて作業してると、音が聞こえるんだよ。
ガサガサ、ガサガサって、虫や動物が動いているみたいな音っていうかな・・・。
ほら、向こうの、おもちゃが積んである棚の方から。
そんな音したら、当然、なんだろうって確かめにいくだろ?
けど、何もないんだよ・・・。
おもちゃとおもちゃの隙間も調べたけど、虫一匹いない。
で、この場所に戻ってくるだろ?
そうすると、また、ガサガサ、ガサガサって棚の方から聞こえてくる。
で、また確認にいく。と音はやむ。
その繰り返し。
配管か何かの不具合なのかと思って、すぐ馴染みの業者に調べてもらったんだよ。
でも、何もおかしいところはないって。
その業者が調べている時も、音はしないんだ。
でも、業者が帰ったとたん、またガサガサ、ガサガサって音が聞こえてくるの。
なんか気味悪いだろ?
そう。人の気配を感じて、音が鳴ったりやんだりするんだよ。
あっ、ほら、今音がした!
聞こえた?聞こえた?

(※テープに、音は記録されていなかった)

(A氏が席を立ち、棚を探る音)

・・・なにもない。なにもないんだよ。まったく嫌になっちゃうよ。
営業時間中は音がしないんだよ。
音がするのは、店をしめて、一人で作業してる時だけなんだ。
でも、なにか害があるわけじゃないしさ、どうするもないよな。
あ、また音が聞こえるな、なんて感じで、慣れていくわけ。
人って不思議だよね。
最初はあんなに怖かったのに、なにも起きないと、慣れていくんだから。
だから気にしないようにしてたんだけど、ちょうど2ヶ月前くらいに、うちのお袋の法事の相談があって、お寺さんがこの店にきたんだよ。
別の法事の帰りでちょうどいいからって。
そしたら、住職が、この店に入るなり、急に一歩も動かなくなって固まっちまったんだ。
顔をこわばらせて、むっつり黙っちまって。
私が話しかけても反応しなくて。
しばらくしたら、ようやく我に返って、
「最近、なにかもらいものをしましたか?」って聞いてきた。
「いや、別に」って私は答えた。
その時は、何も思い浮かばなかったんだ。
むしろ、住職の態度の方が変だった。
「店の中に、売り物じゃないものが混ざっていませんか?よく探してみてください」
住職はそういうや帰っちまった。打ち合わせも忘れてな。
変な坊さんだなぁと思ったんだけど、住職が帰ったあと、ハッと思い出した。
もらいもの・・・。
あの空のダンボール。
考えてみたら、変な音がしだしたのはあの『さしあげます』っていうダンボールの件があってからだった。
住職のあの態度・・・。
あのダンボール、本当に空だったのか。
その時、はじめてそう思ったんだ。
実は空じゃなくて、いわくつきのモノが入っていて、そいつは、私がダンボールを開けるより早く、この店のどこかに隠れた。
住職は、そういうことが言いたかったんじゃないかと私は思ったんだ。
それに気がついた時は、背筋に寒気が走ったよね。
慌てて、台帳を取り出してきて、商品の棚卸しをしたよ。
仕入れてないものがあるんだとしたら、台帳とつきあわせればすぐわかるからさ。
・・・けど、なにもおかしなところはなかった。
ぴったり台帳に書いてある商品しか店の中にはなかった。
注意深く店の商品を見たけど、変なものなんかなかった。
やっぱり思い過ごしかなって思って、最後に店の商品の数を数えてみた。
するとさ、、、1つ多いんだよ。在庫の数より。
何回も数えてみたけど、どうしても1つ多い。
やっぱりなんかおかしなものが増えてやがる。
そう思って、台帳と棚の商品を一つ一つ指差し確認したら、おかしなことにぴたりと合う。
けど、その後、また数をかぞえると、1つ多い。
そいつは、たしかに、この店の中にいるのに、どうも私には気づけないらしいんだ。
わかるか?
おかしな話だろ?
でも、本当なんだ。
この店には、あるはずのないモノが一つ増えてるんだよ・・・。
私にはわからないんだけどな。
そうだ、あんたなら、わかるかもな。
どうだい?
この店の中に変なものはなかったか?
・・・ない?
そうかい、残念だな。
部外者ならわかるかと思ったんだけどな。
あ、ほら、また音がした。・・・聞こえたろ?

(※テープに音は記録されていない)

ま、という、おかしな話さ。
私の体験は。
こんなのでいいのかね?
なんの役に立つのかわからないけど、こんな話でいいなら好きに使ってよ。

・・・あ、あんた、おもちゃ好きかい?
まぁ、嫌いな人はいないわな。
お土産やるよ。ほら、これもっていきなよ。

中に何が入っているかって?
家帰ってから開けてみなよ。
・・・こら!ここで、開けるな!
バカやめろ!そいつは・・・。

(※ガサガサと何かが動く音とヒッと息を呑む音。テープはここで終わっている)

#604

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