【怖い話】【心霊】警備員のアルバイト #187

2017/09/11

 

僕は昔、警備員のアルバイトをしていた経験があるのですが、その時に体験した恐怖体験をお話しします。
ある夏、僕が配属されたのはアパレルショップのお店が集まった10階建ての雑居ビルでした。
仕事は主にお店が閉まってからの深夜の警備で、定時の巡回以外は警備室に控えているだけの簡単な業務です。
どこの現場も初日は緊張するものですが、一緒のシフトの正社員のクボさんがきさくな人だったので、ホッとしました。
ところが、一通りビル内を案内していただいた後でクボさんが言いました。
「ここあんまりみんな長続きしないんだよ」
「え?どうしてですか?」
その質問には答えてもらえず、肩を叩かれました。
「ま、頼むよ。あんまり考えこまなければ大丈夫だから。長く続けくれよな」
歯にものがはさまったような言い方だなと思いました。
けど、初対面でそれ以上食い下がるのもはばかられ、頭にモヤモヤとしたものを残しながら、勤務を続けました。
深夜2時を過ぎた頃、クボさんが巡回にいき僕は警備室で一人になりました。
何もすることがなく、防犯カメラの映像をボーッと眺めていました。
すると、エレベーターの一基が動いているのに気づきました。
クボさんは8階の通路を巡回している姿がカメラに映っていましたので、エレベーターを呼び出せるはずがありません。
僕はあわててトランシーバーでクボさんを呼び出しました。
「エレベーター2号機が動いてます」
「あー、そう。了解」
クボさんの反応が信じられませんでした。
「いいんですか?確認しなくて」
「大丈夫大丈夫」
それで通信は終わりました。
エレベーターは10階に到着すると人もいないのにドアが開き、数秒後にドアはしまり、1階を目指し下降を始めました。
しばらくしてクボさんが巡回から戻ってきました。
怪訝そうにする僕に、クボさんは「まいったな」という顔つきで、頭をガリガリかいて言いました。
「ここな、よくあるんだよ」
「エレベーターが勝手に動くことがですか?」
「まあ、そういう類のことだ。気にしなければ害はないから」
クボさんが言わんとしてることはすぐにわかりました。
要するに、この雑居ビルは"出る"のです。
噂には聞いたことはありましたが、自分が担当することになるとは夢にも思いませんでした。
クボさんは気にしなければいいと言いますが、心霊現象を気にしない人間なんているんでしょうか。
それに、クボさんの言い方からして、エレベーターが動くだけではなさそうです。
初日から気が滅入ってきました。
3時になりました。今度は僕一人で巡回に行く番です。
心の中ではクボさんが代わってくれないかなと思いましたが、
クボさんにそのつもりはなさそうでした。
懐中電灯を手にして警備室を出ました。
1階から順番に巡回していきます。
テナントのほとんどがアパレルショップなので、時折、ライトにマネキンが浮かびあがったり、鏡に光が反射したりし、その度に僕はビクつきました。
手には汗をどっぷりとかいていました。
2階、3階と何事もなく過ぎていくうちに、心もだんだんと落ち着いてきました。
ところが5階に差し掛かった時でした。
チン!とエレベーターが到着した音がしました。
ライトを向けると、誰も乗っていないエレベーターが扉を開けていました。
まるで僕が乗るのを待っているかのようでした。
「ク・・・クボさん!」
僕はトランシーバーに呼びかけました。
こんな時に、クボさんの反応はありません。
後から考えれば自分の行動が信じられませんが、よせばいいのに、僕の足はエレベーターを確認に向かっていました。
"招かれる"というヤツだったのかもしれません。
一歩一歩、エレベーターの箱が近づいてくるたび、僕の心臓の鼓動は早くなりました。
あと一歩というところで、エレベーターの扉が閉まり始めました。
完全に扉が閉まるとエレベーターは再び上昇を始めて行きました。
パネルの表示が10階で停まりました。
僕は何も起きなかったことにホッと胸をなでおろし、そのフロアの巡回を続けました。
ひととおり5階を見終わって6階へ向かおうと思った時、再びチン!とエレベーターの到着を告げる音がしました。
また、エレベーターのドアが開いています。
今度は無視しようと思ったのですが、そうもいきませんでした。
エレベーターの前に髪の長い女性が立っていたのです。
ライトに浮かんだ背中は、あまりに細く病的でした。
「クボさん!」
トランシーバーは相変わらず反応なしでした。
ライトを持つ手がガタガタと震えました。
「ちょっと!」
僕は呼びかけました。そうせざるをえませんでした。
すると、女性は、スッとエレベーターの中に乗り込みました。
頭の中が真っ白になりました。
反射的に女性を追って、懐中電灯でエレベーターの中を照らしました。
しかし、エレベーターには誰も乗ってはいませんでした。
卒倒しそうな恐怖を感じました。
いまにも叫びだしそうでした。
その時、何かが僕の足に触れました。
人の手でした。
細くて真っ白い手がガシッと僕の足首をつかみました。
そして、エレベーターの床からゆっくりと女性の顔が浮かび上がってきました。
頬がこけ骨が浮き出た顔が笑っていました。
女の頭はどんどん浮かんできて、僕の膝くらいの高さまできました。
このままではまずい。
そう思って、掴まれた足を振りました。
女の手が離れた隙に、エレベーターの箱から飛び出ました。
背後でエレベーターのドアがしまる音が聞こえました。
・・・助かった。
そう思った瞬間、ズシンと背中に衝撃を感じました。
首を回して振り返ると、エレベーターの女が僕の背中におぶさっていました。

ケタケタケタケタケタケタ

女の笑い声が頭の中に響き渡り・・・

「おい、大丈夫か?」
気がつくとクボさんが僕の頬を叩いていました。
女はいなくなっていました。
頭がずきずきしました。
クボさんは相方が倒れたというのに平然とした顔をしています。
さすがに恨み言を言いたくなりました。
「何度も連絡入れたんすよ」
「あぁ、わりぃわりぃ」
「なにやってたんですか?」
「見てた」
「見てたって何をですか?」
「お前を」
え・・・?クボさんは何を言っているのだろう。意味がわからなかった。
懐中電灯が逆光となってクボさんの顔がよく見えない。

ケタケタケタケタ・・・

クボさんの口からあの笑い声が聞こえた気がした。

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