【怖い話】汚部屋

2021/02/06

Oさんは、昔から片付けるのが苦手だった。
ゴミ屋敷とまではいかないが、ある程度、部屋にモノが散らかっていて汚くても気にならない。
食べかけのカップ麺や、読みかけの雑誌、脱ぎっぱなしの服がそこら中に散らばっている。
普段からあまり掃除機などはかけないので、床や隙間にも埃が溜まっている。
友人にも眉をひそめられる惨状だが、Oさんはあらためられなかった。
ある時、遊びにきた友人がOさんに言った。
「なぁ、知ってる?掃除しない部屋って幽霊がいる可能性が高いんだって」
「なにそれ、都市伝説系の話?」
「埃がたまった部屋の隙間が幽霊は好きだから、すみつきやすいんだと」
「うけるな、なら絶対俺の部屋いるじゃん」
Oさんは笑って友人の話を聞き流した。

ところが、友人が帰って1人になると、Oさんは妙に心細い気持ちになった。
『幽霊は汚い部屋の隙間にすみつきやすい』なんて言われたものだから、部屋の四隅が気になってしまう。
スマホでアプリゲームをやっていても、集中できない。
目がチラチラと部屋の端に向かう。
何かがいるのではないか?
そんな気になってくる。
だんだんイライラしてきて、Oさんは片付けをはじめた。
変に気にするくらいなら、いっそ片付けてしまおうと思ったのだ。
いざ片付けを始めると、あそこも掃除しよう、あれも整理しようと熱が入り始め、思いのほか作業がはかどった。
襖の奥から久しぶりに取り出して、掃除機もかけた。
1時間ほどすると、ワンルームの部屋はだいぶ片付いてきた。
掃除で身体を動かしたからか、ふいに眠気が襲ってきた。
クッションに頭をあずけて横になっていると、そのまま眠りに落ちてしまった。

何かの気配に目が覚めたのは夜中だった。
部屋の中は真っ暗だった。
何も見えない暗闇に、何かの気配を感じた。
藪の中から小動物がこちらを見ているような気配。
Oさんは怖くて動けなかった。
カサ、コソ、カサ、コソ。
微かに部屋の隅から音が聞こえた気がした。
じっとりと脂汗が額に浮かんできた。
動くのは怖かったけれど、それ以上に暗闇が怖かった。
Oさんはバッと起き上がり、部屋の電気のスイッチを押した。
LED電球がジワッと明るくなる。
音が聞こえた気がした部屋の隅には何もいなかった。
ホッと安堵した次の瞬間、Oさんは「あっ」と思わず声を漏らした。
片付けたはずの部屋が散らかっている。
ゴミが散乱し、服は脱ぎっぱなし、片付ける前に元通りだった。
もちろん、Oさんは何もしていない。
ポルターガイスト現象かと目を疑う有様だった。
けど、考えてみて、なんとなくわかった。
Oさんの部屋に住む幽霊は片付けなど望んでなく、汚部屋のままでいて欲しいということなのではないか。
それから、Oさんは部屋の片付けを今まで以上にほとんどしなくなった。
そのおかげか、おかしな現象に見舞われたり、自分以外の気配を感じることはその後、一切ないという。

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