Clubhouse(クラブハウス)の怖い話

今、Clubhouse(クラブハウス)という音声SNSが話題になっている。
Clubhouse(クラブハウス)はいわば音声版のTwitterだ。
色々なテーマが設定された「ルーム」に入り、雑談をしたり、それを聞いたりすることができる。

Eさんは、知人から招待されて、Clubhouse(クラブハウス)をはじめてみた。
ビジネス関係の人達の話を聞けたらなという軽い気持ちだった。
もともと情報収集用にTwitterとFacebookのアカウントを持っているくらいでSNSには明るくなかったが、いざ始めてみるとこれがけっこう楽しい。
録音が禁止されたリアルタイムのやりとりなので、著名人や有名人が話す裏話を盗み聞きしているように聞くことができたりする。
招待制なので、治安も悪くない。

気づけば色んなルームに入って、人々の会話を聞いていた。
稀にスピーカーとして話すこともあったけど、ほとんどは聞く側だった。

色々なルームを出入りするうち、不思議なテーマのルームに入ることが何度かあった。
誰も何もしゃべっていないルーム。
ただ、キーボードを叩く音だけが延々と聞こえる。
テレワークが増えた今時らしい、ただ一緒に仕事をするだけのルームということらしかった。
他には、お経を延々と聞くルームもあった。
神妙な気持ちになるものの、すぐに睡魔に襲われて退出した。

また、海外のルームにも入ることができるので、何を話しているのかわからない英語のやりとりを聞くこともできた。
時間を忘れて熱中するうち朝方になっていたことが何度もあった。

ある日、Eさんは、Zさんという人が作ったルームに入った。
真っ黒いアイコンなので顔も性別もわからない。
海外のルームにも参加できるので、もしかしたら海外の方かもしれないが、そのルームに入ると、微かに男女が話す声が聞こえてきた。
しかし、やけに音声が遠く、何語なのかもわからない。
机にアプリを起動した端末を置いたまま、話しているのかもしれない。
会話の内容はわからなかったが、不穏な空気は伝わってきた。
喧嘩でもしているのだろうか。
カップルの痴話喧嘩を聞くルームなのだとしたら、ちょっと面白いかもしれない。
ちょっとした野次馬根性で聞き続けていた次の瞬間、女性の悲鳴が轟き、Eさんは思わずイヤホンを耳から外した。
今のはなんだ・・・。
再びイヤホンを装着すると、叫び声はまだ続いていた。
同時に、ガッ!ガッ!と固いものがぶつかるような音がして、しばらくすると女性の悲鳴はやんだ。
その後は、男性の荒い息遣いと、部屋を歩き回る音、工具を掻き回すような音しかしなくなった。
Eさんは、自分が何を聞いているのか理解しないまま、取り憑かれたように耳に神経を集中した。
すると、奇妙な音が聞こえてきた。

ブチッ、ブチッ、ゴリゴリゴリゴリ

まるで、ノコギリのようなもので何かを切っているような音。
Eさんはハッとした。
今聞いているのは、人を殺して、解体している音ではないのか・・・。
吐き気がして、Eさんはトイレに駆け込んだ。
戻ってきて、勇気を出して、スマホを確認すると、すでにそのルームは閉じてしまっていた。

Eさんが聞いたのが、本当に殺人の音声だったのかを確かめる術はない。
もしかしたら、怖がらせるためのフェイクだったのかもしれない。
その後、Zさんというアカウントを見かけることもなく、全ては謎のままだ。

音声で繋がるという気楽さを楽しんでいたEさんだったが、見えない相手が何者なのかはわからないというネットと人の怖さを痛感した気がして、それ以降、Clubhouse(クラブハウス)に触れるのはやめたという。

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