【怖い話】テレビっ子

主婦のAさんにはBちゃんという2歳の娘がいる。

Bちゃんは最近、テレビに夢中で、かじりつくように番組を見て、出演者の発言を真似しようとしたりするという。

まだうまくしゃべれないので、「こんにちは」が「きょんにちふぁ」になったりするのだけど、それがまたいじらしい。
Bちゃんがテレビに集中している間、Aさんは家事を片付けられるので、子育ての面でもテレビに助けられていた。

そんな、ある日のこと。
Bちゃんがいつにも増してテレビに熱心に話しかけている時があった。
Aさんがキッチンから身を乗り出して、テレビ画面をのぞくと、5歳くらいの男の子が映っていてなにやらしゃべっていた。
どうやらBちゃんはテレビの中の男の子が自分に向かって話しかけていると勘違いして、返事をしているらしい。
子供らしい勘違いだなと思ってAさんは微笑ましく思った。
そのままAさんが洗い物を続けていると、突然、Bちゃんの泣き声が部屋に響き渡り、Aさんは何事かと慌てて駆けつけた。

Bちゃんはテレビの前で大泣きしていた。
Aさんがあやしてもなかなか泣きやまず理由を聞いても要領を得ない。
テレビで怖い映像でも流れたのかと確認すると、NHKの将棋の試合中継が流れていた。
ふと、Aさんは、あることに気がつき、テレビの番組表を急いで確認した。

・・・思った通りだった。
Bちゃんがイタズラしないよう、テレビのリモコンは手が届かないところに置いていて、Bちゃんは自分で番組を変えられない。
この1時間くらい、ずっと将棋の試合中継が流れていたはずなのだ。
だとすると、さっきAさんがテレビ画面で見かけた男の子はいったい、、、
将棋中継でたまたま小さな男の子が出てくる場面があったに違いないと理性では思うのだけど、Bちゃんの尋常ではない泣き方を見ていると、何か放送されるはずのないものがテレビに流れていたのではと、そんなことを考えてしまう。

Aさんは、リモコンを取って、テレビの電源を切った。
画面が真っ暗になると、テレビが鏡のように反射して部屋の光景が映った。
一瞬、部屋にいるはずのない男の子の姿が映った気がして、Aさんは思わず息をのんだ。
そしてなぜか、さっきまでAさんの腕の中でわんわん泣いていたBちゃんが、くつくつと笑っていたという。

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