【怖い話】私を忘れないで・・・

 

「私を忘れないで・・・」
高校のクラスメイトだったCちゃんは、そう言い残して、校舎の屋上から飛び降りた。

忘れられるわけがない。
それからの私の人生に、Cちゃんの死は暗い影を落とした。
助けられなかった罪悪感と、死ぬなんて自分勝手だという怒りが、入れ替わり訪れる。
精神的に不安定になり、人との人間関係を築けなくなった。

何年たってもCちゃんの呪縛は続いた。
それでも、なんとか大学を卒業し職にはついた。
転機は社会人4年目に訪れた。
同僚の一人が、家族を自殺で亡くしていたことを知った。
彼にはCちゃんのことを打ち明けることができたし、他の人とのコミニュケーションに感じる怖さがなかった。
彼は2年後、私の夫になった。

高校以来はじめて私生活で満たされた気持ちになった。
不思議なもので、プライベートの充実と反比例するように、Cちゃんのことを考える時間が減っていった。
早く過去は忘れて自分の人生を取り戻したい。
それが本音だった。

そんなある日、妊娠が発覚した。
産婦人科医院からの帰り道、頭の中はお腹に宿った子供のことでいっぱいだった。
道の向こうに、制服を着た女子高校生が見えた。
すれ違い様、声をかけられた。

「私を忘れないで・・・」

ハッとして振り返ると、女子高校生はいなくなっていた。

気にしすぎだと夫は笑ったけど、私にはあれはCちゃんだったような気がしてならなかった。
子供のことで頭がいっぱいになって、Cちゃんの存在を一瞬でも完全に忘れたから、Cちゃんは私のもとに現れたのではないか?
そう思えて仕方なかった。

それからはCちゃんのことを忘れないようビクビクしながら過ごした。
妊娠のストレスもあって私の神経は余計にささくれだった。
つまらないことで夫にもあたってしまった。
それでも夫は辛抱強く我慢してくれた。
出産の時期までそんな日々が続いた。

お産はそれほど重くなかった。
産まれてきた娘を抱きしめた時は、
今までの人生で感じたことのないような充足感があった。

その時、突然、娘がカッと目を見開いた。

「私を忘れないで」

その声は、確かに娘の口から聞こえた・・・。

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