伊豆スカイラインの怖い話

 

伊豆スカイラインは、
静岡県にある有料道路で、
熱海峠から天城高原まで山の稜線上を走っている。
景観がいいことから定番のドライブコースとなっていて、熱海・伊東・伊豆といった海沿いの観光地に行く抜け道としても使われている。

これは、そんな伊豆スカイラインにまつわる怖い話。

会社員のCさんは、
夏前の休みに彼女のFさんを連れて伊豆にドライブに行った。
海を眺めながら砂浜を散歩し、海鮮丼を食べ、温泉に入りに行き、とても楽しいドライブデートとなった。

帰る頃には、すっかり夜が更けていた。
ずっと運転してクタクタだったCさんに代わって、
Fさんが帰りは運転してくれることになった。

行きは海沿いの135号線をずっと南下してきたけど、
帰りはナビが山道を推奨した。
海を背に峠道をぐんぐん登っていくと、伊豆スカイラインという有料道路に出た。
料金所を通過して、しばらくすると、
「本当にこの道を帰るの?」
唐突にFさんがそう言った。
「なんで?」
「なんか急に車が減ったなと思って」
確かに、さっきまで一緒に走っていた他の車はいなくなり、2人が乗った車だけになっていた。
「海沿いの道行った方がよかったかな」
「けど、お金払ったし、海沿いまででたら遅くなるし」
電灯もなく真っ暗で長い道に2人が乗った車だけ。
2人は次第に不安になって、口数が減ってきた。
走れども走れども真っ暗な山道。
開けた道も、昼間だったら見晴らしがいいのだろうけど、夜は漆黒の海で漂流しているかのような寄る辺ない気持ちになった。

「嘘!」
Fさんがいきなり大声を出したので、Cさんはびっくりしてしまった。
「なんだよ!いきなり」
「ヒト!・・・ヒトが歩いている」
ヘッドライトの中に、真っ白なシャツを着た小学生くらいの男の子が確かに浮かび上がっていた。
来た道には、数キロ何もなかった気がした。
こんな夜に男の子が一人で、こんな山道を歩いているなんて、尋常じゃない。
Fさんは、思わずアクセルをゆるめた。
通りすぎざま、CさんとFさんは、憑かれたように男の子に目を向けた。
男の子は、うつむきながら、歩いていた。
車が通りかかっても、見向きもしない。
そのまま、2人の乗った車は走り去った。
しばらく、バックミラーから目が離せなかった。
幸い、いきなり男の子が消えたり、車の後部座席に乗ってたなんて、恐ろしいことは起きなかった。
「・・・なんだったの、今の子」
「わからない」
「もしかしたら、迷子かな」
「そんなわけないだろ。絶対、アレは関わらない方がいいよ」
「そうだよね」
普通の人間ではないと、2人とも感じていた。

2人は気を取り直して走り続けた。

張りつめた時間が続いた。
永遠にこのまま真っ暗な道を走り続けるのではないかと錯覚しそうになる。
伊豆スカイラインに入ってから、他の車を一台も見かけてない。

「もうすぐ終わりだ」
かじりつくようにナビを見ていたCさんが言った。
車は熱海峠にさしかかった。
伊豆スカイラインの終点だった。
終わりが見え、2人とも、ようやく少し心が落ち着いてきた。

スカイラインの出口を出て一般道に出ると、信号があり、赤だったので停車した。

その時だった。

「オイテイカナイデヨ」

はっきり子供の声がした。
車の中、すぐ近くから。
CさんとFさんは、顔を見合わせた。
お互い自分じゃないと首を振った。
聞き間違えとは思えなかった。

周囲を見回した2人は、次の瞬間、
同時に悲鳴をあげた。

車の背後の闇から、さきほどスカイラインを歩いていた男の子が、鬼のような形相で現れたのだ。

「アクセル踏んで!」
Cさんは叫んだ。
Fさんは赤信号を無視して反射的にアクセルを踏んだ。
幸い、他に車がいなかったので大事故は免れた。
バックミラーを覗くと、さきほどまで車が止まっていた位置に男の子がじっと立って、恨めしそうな顔でこちらを見ていた。
あのまま信号で停まっていたらどんな目にあっていたのだろう、想像するだけで怖くなった。

あとで調べてみると、熱海峠近辺には日本BE研究所跡地をはじめ心霊スポットがいくつもあることがわかった。
CさんとFさんは二度と伊豆スカイラインは使わないと決めているという。

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