絶対についてはいけない除夜の鐘-大晦日の怖い話2023-

これはOさん(20代男性)が大学生の時、大晦日に体験した怖い話。

当時、Oさんは地方の私立大学に通っていて、親元を離れて1人暮らしをしていた。
大学3年の大晦日、Oさんは大学の友達のKさん、Tさん、Yさんの三人とKさんの部屋で過ごしていた。
昼からコタツを囲んで飲んだり麻雀をしたり悠々自適なお正月休みを過ごしていた4人だったが、日付が変わる頃、Tさんが、おもむろに「除夜の鐘つきたくない?」と言い出した。
Tさんは、鐘の音を聞いたことはあっても、今まで一度も鐘を自分でつきにいったことがないのだという。
Oさん、Kさん、Yさんも除夜の鐘をついた経験はなかった。

「つきたいからってつけるもんなの、除夜の鐘って」
Yさんが言うと、
「お寺とかでつかせてもらえるって聞いたけど」
とTさんが答えた。
「そういえば、ここから大学までの道に、お寺あったな」
そう言ったのはKさんだ。

そして、あれよあれよとノリでお寺に除夜の鐘をつきにいくことになった。

Oさん達が通う大学は山の中腹にあって、山裾に学生用のアパートが数多くあった。
Kさんの部屋もその一つで、4人は暗い山道を歩いて登っていった。
帰省した学生も多く、大晦日の夜遅くだからから、通りはシンと静まりかえっていて車通りもほとんどなかった。

15分ほど歩いていくと、右手の雑木林が途切れて、上に登る石段があらわれた。
「あった、ここだろ?」と発案者のTさんが興奮していうと、Kさんは首を傾げた。
「こんなんだったかな、、、」
なんとも歯切れが悪かったが、4人はとりあえず石段をあがっていった。
街灯は全くなくなり明かりはKさんの家から持ってきた懐中電灯一つだけだった。
100段ほどの石段を登り切ると、お堂が現れた。
束の間喜んだのち、4人は困惑した。
伸び放題の草、壊れてもげそうになっているお堂の扉、屋根にあいたいくつもの穴。
そこら中が荒れていた。
「廃寺じゃない?ここ」Yさんが言った。
「まさか心霊スポットとかじゃないよな」
Oさんは気味が悪いお寺の有様を見て、内心、引き返したくなった。
他の3人も同じ気持ちだったのか、なかなか足が前に進まなかったが、その時、Tさんが「あっ」と声をあげた。
お堂の左手に、朽ちかけた鐘楼が残っていた。
明かりを向けると、青銅の大きな鐘も見えた。
「あるじゃん、あるじゃん」
Tさんは元気を取り戻して鐘楼に向かって行った。
Oさん達、他の3人もTさんに続く。
Oさん達が追いつくと、Tさんはさっそく鐘をつこうと、棒にくくりつけられた紐を引っ張っていた。
「勝手についたらまずくないか?」
「廃墟なんだったら別にいいだろ」
Tさんは鐘をつく気満々だ。
「オレ、もう帰りたいな」
Kさんは不安そうにソワソワと周りを見回した。
Oさんも同感だった。
その場にいるだけで、心がざわつくような感覚がした。

その時だった。
「シッ」
Yさんが指を口元に立てた。
「・・・声がする」
耳をすませると確かに人の声がどこからか聞こえてくる。
ひとりではない。何人もの声が重なっている。
ぶつぶつとつぶやくようなたくさんの声。
声はお堂の方から聞こえてきていた。
4人は、おそるおそるお堂の方に向かって行った。
近づくにつれ声は大きくなり、大勢の人がお経を唱えている声だとわかった。
覗き込むと、真っ暗なお堂の中から、いくつもの声が重なってお経が聞こえてきた。
はじめ姿は見えず声だけが聞こえていたが、だんだんと目が慣れてきて、闇の中に車座になった人影のようなモノがぼんやりと見えてきた。
10人以上はいる。
年が変わろうという大晦日、廃寺に人が集まって、一心不乱にお経を唱えているのは不気味な光景だった。
大晦日に秘密で執り行わなければならない何かの儀式なのだろうか。
これは、見てはいけない、なにか邪なモノなのではないか。
Oさんは、そんな気がしてならなかった。
他の3人も同じだったようで、早く帰ろうと目が訴えていた。
お堂の人達に気づかれない足を忍ばせて引き返そうとした時、誰かが小枝を踏んだパキッという音がした。

「誰だっっ!!」
お堂の黒い影が一斉に立ち上がりOさん達4人の方を見ているのがわかった。

4人は悲鳴をあげて逃げ出した。
転げるように石段を降りて、Kさんの部屋に戻るまで、一度も後ろを振り返らなかった。

奇妙なことに、Oさん達が後でいくらネットやGoogleマップを使って調べても、Kさんの家の近所に廃寺などなかったという。

Oさん達4人が迷い込んだあの廃寺はなんだったのか。そして、あそこで行われていたのは、何の儀式だったのか。
年が明けると、Oさん達4人は全員、体調を崩したそうだ。
それが、あの大晦日の体験のせいなのかはいまもってわからない。

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