姫路城の怖い話

兵庫県姫路市にある姫路城は、日本で初めて世界文化遺産となった日本を代表する城だ。
城の外壁や屋根瓦の目地を白漆喰で塗られ、白い鷺が羽ばたく姿に見えることから、"白鷺城"とも呼ばれている。
そんな姫路城が、ある有名な怪談のルーツと一説で言われているのをご存知だろうか。

家宝の皿を紛失した罪をなすりつけられ井戸に投げ捨てられたお菊の幽霊が夜な夜な井戸から現れ、「いちま〜い、にま〜い」と皿を数えるという皿屋敷怪談。
その舞台となったといわれる「お菊の井戸」が、実は姫路城内に存在するのだ。

これは、そんな姫路城でNさんが中学生の時に体験した怖い話だ。

Nさんの中学では、社会科見学としてバスで姫路城に行くのが恒例だった。
その道中、バスのガイドさんが、姫路城の歴史を話してくれたのだが、その話の中で、皿屋敷の怪談のルーツといわれているお菊の井戸が姫路城にあるのだとNさんは知った。

クラスメイトの中には皿屋敷怪談を知らない生徒もたくさんいたが、Nさんは、小学生の時に、学校の図書室で子供向けの怪談本を読み漁っていたので、その怪談は知っていた。

姫路城に到着すると、班に分かれ、城内を散策することになった。
Nさんは、班の友達の分もガイドマップを取ってきてあげようと思いトコトコとマップが置いてあるチケット売り場近くの陳列棚に向かった。
すると、ちょうど係の女の人がいて、Nさんに気がつくと、「何枚?」と聞いてきた。
「6枚」というと、女の人は「いちま〜い、にま〜い」と、ゆっくり数えながら一枚ずつNさんにガイドマップを渡してきた。
てっきりイタズラか、からかわれてるのかと思ったが、女の人は無表情だった。
「・・・よんま〜い」

「ちょっとNくん、遅いよ、なにやってるの」
班の女の子に声をかけられNくんは慌てて振り返った。
「え、マップ」
「そんなのいいから、いくよ」
「う、、、うん」
女の子の勢いに負けNくんはマップをもらうのをやめて班のみんなと合流した。
係の女の人に申し訳ない気持ちで振り返ると、さっきまで陳列棚のそばに立っていた係の女の人はすでにどこかにいなくなっていた。

およそ1時間後、城内を見学して外に出てくると、Nさん達は、出口付近にあるお土産物屋さんに立ち寄った。
Nさんは家族へのお土産のお菓子を選びレジに向かった。
レジ係をしていたのは、さっきマップをくれた係の女の人だった。
少し気まずさを感じながら、Nさんはお母さんからもらっていた1万円札を取り出して、女の人に渡した。
すると、女の人は、お釣りの千円札を「いちま〜い、にま〜い」とゆっくり数えはじめた。
・・・まただった。
あまりにもゆっくりとしたしゃべり方は、明らかに皿屋敷怪談を意識しているように思えた。
やっぱりこの女の人はNさんを怖がらせてからかっているのだろうか。
女の人の顔には薄い笑みが浮かんでいた。
同じ班の友達にこの状況を伝えたかったが、みんなお土産を選ぶのに夢中でNさんの方を見ていなかった。

「さんま〜い、よんま〜い」
気味が悪くて早く終わって欲しかった。
「・・・ろくま〜い、ななま〜い。はい、どうぞ」
ようやく女の人が数え終わって札を受け取ったNさんは、一刻も早くその場を立ち去りたかったけど、重い口を開かざるをえなかった。
「・・・あの、千円札が一枚足りません」
商品は2千円だからお釣りは8千円のはずだった。
なのに、女性が渡してきたお釣りは7千円。
明らかに足りていなかった。
すると、Nさんに指摘されるや、女性は怒りに顔を歪め、いきなり「嘘をつくなっ!」と空気が張り裂けんばかりの声で叫んだ。
突然の出来事にNさんは腰を抜かして「うぁぁぁ」と言葉にならない叫び声をあげ、へたり込んだ。

店中の視線がNさんに向いた。
「なにやってるの、Nくん」
班のメンバーがキョトンとした顔でNさんを見ている。
「ボクどうかした?大丈夫?」
レジから女の人が顔を出してNさんを見下ろしている。
けれど、その人は、ついさきほどまでレジにいた係の女の人ではない全く別の人だった。
班のメンバーの困惑と他のお客さんの好奇の視線が痛くて、Nさんは恥ずかしくなった。
Nさんが立ち上がると女の人は8千円のお釣りを手渡してきた。
その後、大丈夫かと何人もに心配されたが、Nさんは、ただ、うなずくことしかできなかった。

あの女の人はなんだったのか。
Nさんは今も答えを得られていない。
皿屋敷怪談に魅入られたNさんが見た幻覚だったのか、それとも姫路城に巣食う何かだったのだろうか、、、

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