【怖い話】使ってない部屋

大学の同級生にFという友達がいる。
Fが大学時代に住んでいた部屋は2Kだった。
6畳の洋室にベッド、ソファ、テーブルが置いてありメインの生活空間になっている。
もうひと部屋の方はというと、空き部屋だった。
何一つモノがなくガランとしている。
使っていないなら、なんのためにワンルームより家賃が高い2Kの部屋をわざわざかりたのか。
当然の疑問をFに投げかけてみた。
彼女ができた時のためか、それとも良い条件のワンルームがなかったのか、思いつく可能性を投げかけてみたけど、Fは「へへ」と笑うだけで理由を話してくれない。
何か言いづらい理由でもあるのかなと思ってそれ以上追究はしなかったけど、教えてもらえないと逆に気になってしまった。けど、結局、最後まで謎は謎のままだった。
Fは大学3年の時、引っ越した。
ちょうど賃貸契約の更新のタイミングだったらしい。
今度はどんな部屋に引っ越したのかなと思って早速遊びにいってみると、次の部屋の間取りは2DKだった。
やはり、ひと部屋多い・・・。
部屋は変われど、家具や家電の配置はほとんど同じだった。
もうひと部屋の方を確認すると、またも使われていなかった。
「なぁ、F。この空き部屋、なんのためにあるの?」
私はストレートにたずねてみた。
またも、Fは「へへ」と屈託なく笑うだけ。
かたくなにしゃべらない理由がわからなかった。
Fは決して秘密主義者ではない。
それほどまでに話したくないワケがあるのだろうか。
もしかして、Fにだけ見える何かが住んでいるとか、、、
空き部屋の件以外、Fはどこにでもいる同年代の男子で、一緒に遊ぶのは楽しかった。
結局、大学生活の4年間で、使われていない部屋の謎がとけることはなかった。

社会人になると、お互い忙しくなり、連絡を取ることもほとんどなくなった。
それでも、26歳の時、久しぶりに大学時代の同級生で集まろうということになり、飲み会が催され、Fの姿もあった。
Fは、全くといっていいほど変わっていなかった。
いつもニコニコ笑っているように見える垂れ目。
"いい人"が服を着たようなキャラクターも、少しも擦れることなく健在だった。
私はつかのま学生気分に戻り、気持ちが落ち着くのを感じた。
夜が深くなった頃、今住んでいる家の話になった。
ほとんどのメンバーが、給料に見合ったそれなりの賃貸物件に住んでいる中、Fだけが違った。
「実は、中古の一軒家を買ったんだ」
Fの発言にみんな度肝を抜かれた。
「なんで?」「誰かいい人できたの?」とみんなが一斉に質問を飛ばすと、Fは「へへ」と笑った。
その笑顔で、学生時代の記憶が一気に押し寄せてきた。
Fの部屋の使われていない部屋の謎・・・。
「なぁ、F。家見せてもらっていいか?」
気づけば口から言葉が出ていた。
「いいよ」
Fは全く迷わず私に答えた。
他のメンバーも興味を示したが、明日の予定があって、結局、Fの家に向かったのは私1人だけだった。
最寄駅を降りて、閑静な住宅街を入っていき、Fは一軒の家の前で足を止めた。
「ここだよ」
青い屋根に白い壁の一軒家。
中古とはいえ、かなりキレイだった。
「高かったんじゃないか?」
「そうでもないよ。たまたまいい物件に当たったんだ」
玄関で靴を脱ぎ、リビングダイニングに通される。
懐かしい光景が目に飛び込んできた。
というのも、大学時代の部屋とほとんどかわっていなかった。
見たことがあるベッドに、見たことがあるソファ、見たことがあるテーブル。
ソファから手を伸ばせば書棚の本に手が届く。
蔵書も変わっていない。
この部屋だけで暮らしが完結しているのも、昔と同じだ。
Fはコーヒーをいれてくれた。
「ここに1人で暮らしてるのか?」コーヒーをすすりながら私はたずねた。
「うん」
「1人で一軒家って広くないか?」
「そうでもないよ。ちょうどいいくらい」
「他の部屋も見ていい?」
「いいけど、別に何も面白くないよ」
面白いか面白くないかではない。
私は確認したかったのだ。
もし私の予想が正しければ、、、
リビングの隣の和室の戸を開け、私は絶句した。
予想は的中していた。
何もない、、、
使われていない、、、
他の部屋も見せてもらったが、一階の残りの洋室も、2階に2部屋ある洋室も、使われていなかった。
F はリビングダイニングでだけ暮らしているのだ。
変わったのは、使われていない部屋の数が増えただけだった。
「なんで使わないの?こんなに部屋があるのに」
私には、およそ理解しがたかった。
これはもはや奇行だ。
Fに恐怖すら覚えた。
Fは黙って、ニコニコ笑っているだけだった。
「なぁ、教えてくれよ。ずっと気になってたんだ。この空き部屋にどんな意味があるんだよ!」
私ははじめて食い下がった。
解けない謎への苛立ち、自分に理解できない行動への恐怖、友人への心配、いろんな気持ちが混ざって溢れでたのだと思う。
Fは、じっと私を見つめ返し、「へへ」と笑った。
そして、ささやくように言った。
「本当に知りたい?」

・・・気がつくと、自分の部屋のベッドの上だった。
頭が割れそうに痛い。
二日酔いのようだった。
Fの家で、使ってない部屋の理由を問いただしたところまで覚えていたけど、その後の記憶がまるでない。
記憶をなくすほど飲んだ覚えはなかった。
けど、何も覚えていない。
Fは、使ってない部屋の真相を教えてくれたのか。
それすらわからない。
けど、もしかしたら、覚えていない方がいいような恐ろしい理由だったから、私の脳が記憶を消し去ったのかもしれないとも思った。
あの夜のFの顔を思い出そうとすると、なぜか鳥肌が立つのだ。

いまだに、Fにあの日のことは聞けていない・・・。

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