【怖い話】【心霊】渋谷の怪談イベント #205
2017/09/11
「渋谷で怪談イベント開催!」
SNSが主流のこの時代に、そう書かれた紙の告知ポスターを見かけたのは、つい先日。
一昔前のB級ホラー映画の宣伝ポスターのような、いかにもな黒と赤のレイアウトだった。
張ってあった場所から剥がれてしまったのか、風にあおられて、僕の足元にやってきたのを拾ったのだ。
会場は、渋谷の繁華街からかなり離れた雑居ビルの地下だった。
参加するつもりはなかったのだが、その怪談イベントが開催される日、別の約束をしていた友達が体調を崩し、予定がなくなり、たまたまその友達との待ち合わせが渋谷だったという偶然が重なり、どうせ暇だからと怪談イベントに行ってみることにした。
それに、怖い話や怪談話は嫌いじゃない。
人に話すおもしろいネタになるかもしれない。
地下へ続く階段を降りて、ドアを開けて入ると、中は完全に真っ暗闇だった。
会場を間違えたのだろうかと思い、一回出ようとすると、「ようこそお越しくださいました」と暗闇の中から声がした。
「当イベントは雰囲気を味わっていただくため、照明をすべて落としております。そのまま、まっすぐお進みください」
なるほど、会場を暗闇にして恐怖心をあおって怪談話をする、そういう演出らしい。
つまずかないよう慎重に進んでいくと、人の気配がした。
どうやら思ったより、お客が入っているらしい。
ゆうに30人はいそうだ。
少し手を回すと人に触れる感覚があった。
座れるくらいのスペースがあったので、その場に腰をおろした。
開演の時間を待つ。
聞こえるのは、誰かの微かな息づかいと衣擦れの音くらいだ。
暗闇に一人で放置されるのは思ったより怖い。
見えない闇の中に潜む何者かの存在をどうしてもイメージしてしまう。
「これは、ほんとうにあった怖い話なのですが・・・」
唐突に声がした。
前触れもなくイベントが始まったらしい。
すると不思議なことが起きた。
天井から声が降ってきたと思ったら、次の瞬間には耳元でささやかれているように声がきこえた。
その次は、少し離れて。
声がする場所が次々と変わっていく。
たくさんのスピーカーを用意して、切り替えているのだろうか。
意外な演出に怖さは倍増した。
背中がゾクゾクした。
暗闇で見えないが腕に鳥肌が立っているのを感じた。
ただ、音の演出自体が怖いせいで、怪談話の内容が全然入ってこない。
廃屋で肝試しした学生が悪霊に襲われるとか、隣の部屋に住んでいる人が人殺しだったとか、そういうよく聞く怪談話だったような気がする。
ただ、語り部が最後には死ぬという流れは、全部の話に共通していた。
「・・・以上をもちまして、本日のイベントは終了になります」
始まりと同じく唐突にエンディングは訪れた。
あっという間の60分間だった。
思いのほか怖かったし、思いのほか楽しんでしまった。
さて、帰ろうと思った時、会場の照明がついた。
眩しさに一瞬、目がくらんだ。
目が慣れてきて見えた光景に、言葉を失った。
人が・・・ほとんどいなかった。
お客は自分の他に、3人しかいない。
照明がつく前までは、あんなにも大勢の人の気配がしたのに・・・。
単なる勘違いだったのだろうか。
他の3人も自分と同じように動揺してキョロキョロと辺りを見回していた。
彼らに話を聞いてみると、みんな自分のように、電気がつく前までは大勢のお客がいたと思っていた。
一体、暗闇の中にいた人たちはどこへ消えてしまったのだろうか。
声と同じように、これも演出の一部なのか。
その時、僕は気がついた。
会場には、スタッフの姿もなければ、音響装置もないことに・・・。