【怖い話】【心霊】ノラ #204

2017/09/11

 

土曜日、部活の練習を終えて、家に帰ると母の悲鳴が庭から聞こえた。
駆けつけると、花壇の手入れをしていた母が地面の何かを見つめている。
ねずみの死体だった。
食いちぎられたような痕があった。
「やだ、野良猫かしら」
「退治してくれたんじゃない?」
寝ていると天井からときどきねずみの足音がして起こされることがあったので、私はむしろありがたかった。
内蔵が飛び出たねずみの死体はグロかったけど。
私は、母がスコップで死体を埋めるのを手伝うことにした。
その夜。私は野良猫さんにお礼をしようと思って、夕飯の魚の身を小皿に入れて庭においておいた。
翌朝見てみると、魚の身はきれいにたいらげられていた。
はじめてできたペットみたいで楽しくて、私はそれから夕飯の残りを野良猫にあげるのが日課になった。
ペットを飼うのに反対の父も野良猫に餌付けするくらいでは、強くは言ってこない。
野良猫との餌だけのやりとりが1週間くらい続き、まだ1回も野良猫の姿を見かけていないことに私は気がついた。
どんな猫なんだろう?
私は気になってその晩、庭先で待ち構えることにした。
私の存在に気がついたら出てこないかもしれないので、母の庭いじりの道具がしまわれている倉庫に隠れていた。
戸を少しだけ開け、隙間からおかずを盛った小皿が見えるようにした。
あとは根比べだ。
あくびを噛み殺した。
1時間待ったが、野良猫はまだ現れない。
もしかしたら、私の存在に感づいているのだろうか・・・。
・・・私はハッとした。
いつのまにかウトウトして眠ってしまったらしい。
時計を見ると12時を回っていた。
最悪だ。2時間以上眠ってしまった。
幸い、小皿におかずはまだ残っていた。
その時だった。
ズル・・・ズル・・・ズル・・・。
なにかを引きずるような音がした。
どこから音がするのだろう。
周囲を見回して、私は目を疑った。
人間の手が地面を這うように小皿の方に伸びていた。
異常な長さだった。
ゆうに数メートルはある。
まるで大蛇のようだ。
その手は、家の軒下に続く鉄柵から伸びていた。
野良猫どころじゃない、私の家の軒下には化け物が潜んでいた。
私は声を上げないよう口を手で押さえた。
私が倉庫に隠れているのがバレたらどうなるか恐ろしくて仕方なかった。
その手は、小皿までたどりつくと、おかずをつかみ取った。
ガタッ。
後ろの棚に置いてあったじょうろに肩がぶつかり音が鳴った。
一瞬、じょうろを確認し、視線を戸の隙間に戻した瞬間、目と鼻の先に、化け物の手の平が迫っていた。
手の平には、尖った牙が生えた口と、鼻のような穴があいていた。
まるで手の平に顔がついているようだった。
手の化け物は小皿のおかずをつかんでいたのではなく、あの場で食べていたのだ。
口の端(正確には手の平の先)におかずの欠片が付着していた。
指の部分は触手のように不気味な動きを繰り返している。
化け物が歪んだ形をした口から奇声を上げた。
覚えているのは、そこまでだった・・・。

気がつくと、私はなぜか自分のベッドで眠っていた。
あれは夢だったのだろうか。
ところが、その日から、夕ご飯を置くのやめると、真夜中、
どこからともなくあの手の化け物が上げていた気味の悪い声が聞こえてくるようになった。
夕ご飯の残りを庭先に置いておくと、奇声はおさまった。
野良猫への餌づけをしているつもりで、気づかないうちに、私は化け物へのお供えをしてしまっていたらしい・・・。

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