【怖い話】【心霊】第142話「首なし地蔵」
これは僕が小学校3年生の時に体験した怖い話。
僕の家は最寄り駅までバスで2時間近くかかる山奥の過疎の村にあった。同級生は1人しかいなかった。
僕の家の近所には、お地蔵さんが祀られていたのだけど、そのお地蔵さんには首がなかった。
どうして首がないのか一度ばあちゃんに聞いたことがあったけど、はぐらかして答えてもらえなかった。
村の人たちは、その首なし地蔵に欠かさずお供えをしていたので、お地蔵さんの周りにはいつもフルーツやお菓子がいっぱいだった。
ある日の学校帰り。1人しかいない同級生のS君がお腹が空いたと言い出した。ちょうど、首なし地蔵の前を通りかかる時だった。
あんなにいっぱい食べ物があるなら少しくらいもらってもいいんじゃないか。
Sくんはそう言って、お供え物の煎餅を盗んだ。そして僕に一枚渡してきた。自分だけ悪者になりたくないらしかった。僕はバチ当たりだから断ろうと思ったけど、S君がしつこかったので仕方なく受けとって家に持って帰った。
その日の夜。寝苦しくて僕は夜中に目が覚めた。トイレに行こうと思って、廊下を歩いていると、ガラス越しに表の街灯の下に立つ人影が見えた。
・・・ハッとした。
首がないように見えた。光の加減だろうか。
いや、よく見ると格好もおかしい気がする。
ボロボロの着物みたいな和服を身につけている。眠い目をこすって、しっかりと見ようと思った。けど、次の瞬間にはもう消えていた。
寝ぼけたんだろうか・・・。それにしては、やけにはっきり見えた気がする。
自分の部屋に戻っても、さっき見た人影のことが気になって、目が冴えてしまい、全然眠れなかった。
時計を確認すると深夜2時を過ぎていた。
その時だった・・・。
ギシ・・・ギシ・・・ギシ・・・。
誰かが廊下を歩く音がした。僕の家は昔ながらの平屋で廊下を歩くと軋むのだ。
足音はゆっくり僕の部屋に近づいてくる。
僕の部屋は廊下の一番奥にある。
こんな真夜中に家族が来るはずがない。
背筋が寒くなった。
ギシ・・・ギシ・・・ギシ・・・。
足音は近づいてくる。
僕は布団を頭から被った。
さっき表に立っていた首のない人に違いない。そう思った。
Sくんがお供えなんて盗むから、お地蔵さんが怒ったんだ。
・・・そうだ。お供え。アレを返せば。
僕は、咄嗟に、机の上に放置しておいたお煎餅をつかみ、窓から表に出た。
裸足のまま通りを走った。途中何度か振り返ったけど、誰も追ってきてなかった。
首なし地蔵にたどりついた。
僕はお煎餅を戻し、手を合わせて何度も謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
その時だった。
「おーい」
Sくんの声がした。
振り返ると通りの向こうからSくんが歩いてくる。Sくんもお供えを返しにきたのだろうか。
・・・いや、何かがおかしい。
確かにSくんの顔をしているけど、身体が妙に大きい。
・・・あれは、あれは、あれは。
心臓が破裂しそうな恐怖に僕は叫び声をあげた。
Sくんの頭の下に、和服を着た大人の男の人の身体がくっついていた。
覚えているのはそこまでだ。
気がつくと僕は自分の布団で寝ていた。
・・・アレは夢だったのだろうか。
今でもそれはわからない。
ただ、その日以来、Sくんは忽然と姿を消し、今も行方はわかっていない・・・。