【怖い話】似顔絵

先日、大学の女友達と2人で遊んでいたら、公園の前に似顔絵のお店が出店していた。
「描いてもらおうか?」
なんとなくその場のノリで2人して似顔絵を描いてもらうことにした。
絵師のお兄さんは伸ばし放題の髪にヨレヨレの格好をした暗い感じの人で、一言もしゃべらず黙々と絵筆を動かし続け、10分もたたずに一人分をかき上げてしまった。
仕上がりは早かったけど、出来上がりは特徴がとらえられていて、思わず友達と2人で「似てるねー」とテンションがあがった。
描いてもらった似顔絵は自分の部屋の棚の上に飾っておくことにした。

それから数週間が経った頃、似顔絵にちょっとした変化があった。
頬のあたりにできた黒い斑点。
はじめはシミか何かができたのかと思った。
前までなかったのは確かで、なんでこんな目立つ汚れがついたのか理由がわからなかった。
一度、気になってしまうと目にとまって仕方がなかった。
ためしに服でゴシゴシ拭ってみたけど落ちない。
そして、その汚れは、落ちるどころか、日に日に広がっていった。
はじめはホクロくらいのサイズだったのに、パチンコ玉くらいの大きさまでになっていた。
紙の劣化とか塗料が滲んだとかそういうことなのかもしれないが、自分の顔の上に黒い汚れが広がっているのは、見ていて気持ちがいいものではなかった。
一緒に似顔絵を描いてもらった友達の絵には、何の変化もないらしい。
私の似顔絵だけというのが、また腹立たしい。

ある程度のところで汚れは広がらなくなって止まったのだけど、今度は、似顔絵の私の表情が変わっていっているような気がした。
うっすら微笑んでいたはずなのに、だんだんと口角が下がって、不機嫌な表情に見えるようになってきた。
私の気にしすぎなのだろうか。
友達に見てもらうと、その友達も顔つきが変わってきているように見えるという。
気味が悪くて仕方なかった。
「描いてたお兄さんも普通な感じじゃなかったし、捨てたら?」と友達は言った。
けれど、捨てたら捨てたで何か起きやしないか心配で、私は踏ん切りがつかなかった。
目に留まると気にしてしまうので、結局、棚の中にしまうことにした。

しばらくは似顔絵のことを思い出すこともなく普通に暮らしていた。
ところが、棚の中のモノを取り出した時、つい気になってチラッと見てしまった。
私は悲鳴をあげて、似顔絵を床に投げ出した。
似顔絵の私は、苦悶に顔を歪めてもだえているような顔つきに変わっていた。
もはや別人だった。
もとは淡いパステル色で描かれていたはずなのに、黒と茶に変色していた。
いったい私の似顔絵に何が起きてるのか。

私は、すぐに似顔絵を描いてもらった公園に急いだ。描いた絵師さんなら原因がわかるかもしれないと思ったのだ。
もうお店を出していないかもしれないと思ったけど、運よく同じ絵師さんの店がまだあった。
事情を話すと、絵師さんは驚くでもなく、「そう」と言った。
「たまにあるんだよね。けど、悪いことじゃないから。形代って知ってる?」
「形代?」
「例えば、人形とかを使って、人間の身代わりに穢れを引き受けてもらったりするんだけど、似顔絵もたまに形代になることがあるんだ」
話についていけず首を傾げるしかなかった。
「つまり、キミに起きるはずだった不幸を似顔絵が身代わりになってくれたのかもしれないってこと」
・・・そういうものなのだろうか。
それなら確かに悪い現象ではない。
不思議なことに、絵師さんの話を聞いてから、今までの不安が嘘のように、顔が変わった似顔絵がまったく怖くなくなった。
もう捨てようという気も起きなかった。

それから、数ヶ月後。
私は絵師さんの言葉が本当だったのだと信じざるをえない体験をした。
似顔絵を一緒に描いてもらった友達を含めた数人で歩道を歩いていたところ、高齢者が運転する車が突っ込んできたのだ。
似顔絵に変化がなかった友達は骨を折って全治1ヶ月の怪我をおった。
事故の直前、私とその友人はたまたま位置を入れ替えていて、真横を歩いていた私は無傷ですんだ。
自宅に帰って似顔絵を確認すると、もはや人が描かれていたと判別できないほどに黒ずんでいた。
不幸を肩代わりしてくれたのだとしたらありがたいが、もし似顔絵を描いてもらってなかったらと思うと、薄ら寒い気持ちがする。

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