第44話「連れ帰る」

2016/09/01

これは、俺が大学1年の時の話。

その日、俺は、高校の同級生たちと、幽霊が出るって有名な心霊スポットのトンネルに肝試しに行ってきた。
レンガ造りのトンネルは天井や壁から地下水が滴ってて不気味な雰囲気だったけど、特に怪奇現象は起きなかった。
けど、俺は大の怖がりだから夜中に一人暮らしのアパートに帰ってきた時にはドッと疲れていた。

一息ついて、さあ寝ようかなと思ったら、いきなり携帯電話が鳴って俺はビクッとした。
こんな夜中に一体誰だ・・・?
画面を確認すると、今日は予定があってこられなかったAからだった。
噂をすればというやつだった。
Aは昔から霊感があるって有名だったから、来てれば肝試しがもっと盛り上がったろうなってみんなで残念がっていたのだ。
俺は電話を取った。
「もしもし?」
「・・・お前ら今日、どこ行ったんだ?」Aは怒っているような声だった。
「え?XXトンネルだけど?」
「お前、連れ帰ってきてるぞ」
「はぁ?」
Aが言った言葉がじわじわと頭に入ってきた。俺が心霊スポットから霊を連れて帰ってきたしまったと言っているのだ。
「それ、マジな話?」
「大マジ。しかも、かなりヤバいヤツ。そいつがお前の部屋に入ろうとしてる」
「嘘だろ!?」
全身が粟立あわだつのがわかった。
俺は反射的にカーテンの隙間から表を窺ったが誰もいなかった。

「ど・・・どうしたらいい?」
俺はパニックに陥って言った。
「いいか?俺の言う通りにしろ」
「わかった」
Aの指示は、部屋の四隅に塩を置けという簡単なものだった。
それで霊の侵入を防ぐことができるという。ただし、置いていく順番が大事らしい。
俺は慌ててキッチンに塩の瓶を取りに行って、Aに言われたとおりの順番に部屋の四隅に塩を盛っていった。
あと一か所というところで、キャッチフォンが入った。
こんな非常事態にキャッチフォンなど気にする場合じゃないのだが、俺は咄嗟にスマホの画面を確認していた。
キャッチフォンの相手は、今まさに電話しているはずのAだった。
俺は状況が飲み込めなかった。
今、Aと電話で喋っているのに、どうしてAからのキャッチフォンが入るのか。
俺は、震える声で現在通話しているAに尋ねた。
「・・・お前、本当にAか?」
電話の向こうから微かに舌打ちするような音が聞こえたと思ったら、通話が途切れた。
俺は、もう一人のAからのキャッチフォンを取った。
「大丈夫か?なんかお前によくないことが起きる予感がしたから、心配になって電話したんだけど・・・」たしかにAの声だった。
俺は、へなへなとその場に座り込んでしまった。

後から本物のAに聞いた話では、偽物のAが指示した通りの順番で塩を置いていたら、部屋に霊を招き入れてしまっていたらしい。
・・・俺は二度と心霊スポットには近寄らないと固く心に誓った。

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