【怖い話】畳の音

祖母の家は瓦屋根の平屋だった。
周りは田んぼと雑木林しかなく、隣の家までは100m以上も離れていた。
都会暮らしの私にとって純和風の家は全てが新鮮で、祖母の家に遊びにいくたび、冒険をしているような気持ちだった。
中でも、私のお気に入りは畳の和室だった。
フローリングの床とカーペットしか知らない私は、いら草のにおいと肌触りを感じるだけで楽しくて仕方なくて、少しは外で遊びなさいと叱られるほど、畳の部屋でゴロゴロとするのが好きだった。
何をするでもなく、ひんやりとした畳に寝そべって虫の音を聞いているだけなのだが、それが至福の時間だった。
あまりに気持ち良すぎてウトウトしかけた時、子供の声が聞こえてきて、ハッとなった。
祖母の家の近所で子供の声を聞くのは、これがはじめてだった。
てっきり祖母と同年代の人たちしか住んでいない集落なんだろうと思い込んでいたので、同世代の子がいるなら仲良くなりたかった。
けど、家の周りをいくら探しても、それらしき子供の姿はない。
聞き間違いかと思って、畳に再び寝転がると、また声が聞こえる。
内容までは聞き取れないけど、何人かの子供達が話している声だった。
けど、やはり家の周りに子供の姿はない。
遠くの声が、たまたま祖母の家の畳に届いているのだろうか。
気になった私は、畳に耳を押しつけて、何を話しているのか聞き取ろうとした。
盗み聞きだけど、好奇心に負けた。
「あの・・・たい」
「・・・だね」
もう少しで聞き取れそうだ。
耳を澄ませてみると、意味のある会話らしきものが聞こえた。
「あの子を連れていこうよ」
「そうだね」
・・・あの子って誰?
「あの白い肌を八つ裂きにしたら楽しいよ」
「髪の毛を全部むしりたいな」
あまりに突拍子もなく、不穏な会話すぎて、私は聞き間違いかと思った。
何の話をしているの、この子達・・・。
「ちょっと待って・・・」
沈黙。
「・・・ねぇ、聞いてるでしょ?」
耳元ではっきり声が聞こえ、私は悲鳴をあげて、逃げるように後ずさった。
和室で泣きじゃくる私を見つけた祖母は困った顔で慰めてくれた。
「あの畳から、畳から・・・」
事情を聞かれてもうまく説明できない。
その時、私は、気がついた。
声が聞こえた畳だけ他の畳と色が違う。
「おばあちゃん。あの畳だけどうして色が違うの?」浮かんだ疑問が口をついて出た。
「あぁ、あれ。あの畳は古いけど、かえられないのよ・・・」
祖母は、忌まわしいものでも見るように、畳に目を落とした。
なぜ畳をかえられないのか理由は聞けなかった。
その時だけ、いつも優しい祖母が、何も寄せつけない雰囲気をまとっていて怖かったのだ。
・・・きっと、あの畳には、何かのいわくがあったのだろうと思う。

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