大牟田市動物公園の怖い話
大牟田市動物園は福岡県大牟田市が管理する動物園で九州で唯一ホワイトタイガーを飼育していることで有名だ。
延命公園の南側にあることから、地元の人達は延命動物園とも呼ぶ。
大牟田市動物園は奇妙な立地にある。
園内を奥に進んでいき名物のホワイトタイガーのケージを超えると、藤棚の坂道があって、その先にえんめい橋という陸橋がかけられている。
その橋を渡る時に見える光景に、思わずギョっとする来場者も多いのではないだろうか。
陸橋の下には、大牟田市葬斎場があり、その後ろには墓地も見える。
動物園は火葬場と隣接しているのだ。
これは福岡で昔小学校の教員をつとめていた友達のTから聞いた話。
ある時、Tがクラス担任を受け持つ4年生の遠足が大牟田市動物園に決まった。
到着すると、生徒たちは各班に分かれて、一斉に園内に散っていった。
お昼までは、班ごとに行動すれば園内は自由行動にしていた。
Tは、動物に夢中になっている生徒達に目を配りながら園内を進んでいった。
Tがしばらく歩いていると、
1人の男子生徒が班とはぐれてポツンとケージの前に立っているのが見えた。
学校で見かけた覚えがない生徒だった。
こんな子いたかな、とTは思ったけど、全クラスの生徒をきちんと把握しているわけではない。
班行動を促しても、どうしてもこういうはぐれた生徒が出てきてしまう。
Tは男子生徒の横に立ち声をかけてみた。
「どうした?みんなとはぐれたの?」
生徒は無反応だった。
Tは話の方向を変えた。
「なに見てるの」
すると、男子生徒がケージの方をまっすぐ見ながら答えた。
「苦しいよ、苦しいよって言ってる」
「苦しいってなにが?」
「息ができないって。早くヤマから出してって」
はじめ、生徒が何のことを言っているのかわからなかったが、Tはハッとした。
大牟田市には、かつて三池炭鉱があり、1963年の粉塵爆発で大勢が亡くなった悲惨な事故があった。死因の多くは一酸化炭素中毒だった。
しかし、仮に三池炭鉱の事故の話をしているとしても、小学校4年の生徒が知っているのは不思議といえば不思議だったし、ここは動物園であって炭鉱と直接ゆかりがあるわけではない。
大人が教えたのだろうか。
「誰から聞いたの?」
そう聞くと、男子生徒は答えた。
「動物さん」
男子生徒はおもむろにケージを指差した。
男子生徒が指差したケージには、動物は入れられていなかった。
ガランとしたケージは手入れがしばらくされていないのか草が伸びていた。
不思議に思って、振り返ると、男子生徒は忽然と消えていた。
その後、お昼になって、生徒達が集合した。
Tがいくら探しても、さっき班からはぐれていた男子生徒は見つからなかったという。
帰り際、Tがえんめい橋を通りかかった時。
視界の隅に、子供の姿が見えた気がした。
目で追うと、男の子が陸橋の下に建つ葬斎場の隅に消えていったような気がしたという。
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