先日、残業終わりの深夜に車で家に帰っていた時の話です。
その日、僕が勤めている食品加工工場で機械トラブルがあって、
心身ともにクタクタになりながら帰っていました。
工場から自宅まで約30分。
眠気との闘いでした。
途中、日光街道をしばらく走ります。
日光街道は、江戸時代からの旧道です。
杉並木に囲まれていて走っていて気持ちのいい道なのですが、
昼間こそ日光方面に向かう観光客の人が使うので通行量が多いものの、
深夜ともなるとほとんど車通りがありません。
暗く寂しい道を、僕の車が一台きりで走るだけでした。
しばらくして、バックミラーに後続車があらわれたのですが、
ふと違和感に気づきました。
後続車のライトが片方壊れていたのです。
故障車に後ろにつかれるのは気分がいいものではありませんでした。
あおられるほどすぐ後ろでないにしろ、
一定の間隔で、後ろをぴったりついてきます。
なんだか嫌だなぁと思いました。
その時、カーブにさしかかりました。
チラと後続車を確認して、僕はハッとなりました。
後続車のライトがちゃんと両方ついていたのです。
しかし、直線に入ると再び片方のライトが黒で塗りつぶされたように見えなくなります。
ついたり消えたり、その繰り返しで僕は気づいてしまいました。
後続車のライトは故障などしていない。
僕の車の後部座席にいる”何か”がライトの光をさえぎっているのだと。
目を凝らすと後部座席に女性のようなシルエットが見えた気がしました。
背筋に冷たい汗が浮かびました。
もちろん後部座席には誰も乗っているはずがありません。
僕の車に”何か”が乗り込んでしまった。
怖くて後ろをちゃんと確認できませんでした。
チラとでも後ろを振り返り、
直接目にしまったら、
恐ろしいことが起きるのではないか、
そんな気がしたのです。
ハンドルを握る手に大量の汗が浮かびました。
眠気など吹き飛びました。
いつのまにか後続車は別の道に入っていて、
再び僕は1人きりになっていました。
嫌だ、怖い・・・。
日光街道を抜け、自宅まであと10分くらい。
前方によく立ち寄るコンビニの明かりが見えました。
僕は光に誘われる虫のように迷いなくコンビニに寄りました。
煌々と明るいコンビニ店内の照明のおかげで少し落ち着きを取り戻し、
バックミラーを覗いてみると、
後部座席の女の人のようなシルエットはなくなっていました。
一体なんだったのだろう、もしかして単なる見間違いだったのだろうか、
そうも思いました。
クタクタに疲れていたので、幻でも見たのかもしれない。
コンビニでコーヒーを買おうと思って、
車を降りた瞬間、ゾワッと肌が粟立つ感覚がありました。
後部座席をバッと振り返ると、女が乗っていました。
乱れた髪に黒茶けたのっぺり顔。
線のように細い目がニタァと笑いかけてきました。
僕は、車をその場に置き去りにして、
自宅アパートまで走って帰りました。
翌朝、車を取りに戻ると女の姿はありませんでした。
鍵がかかった車から煙のように消えていました。
後部座席のシートは誰かがずっと座っていたように湿っていました。
夢や幻ではなかったのだと思います。
この世のものではない女をどこかで乗せてしまった、そう思っています。
それ以来、深夜に日光街道を走るのは避けるようにしています。
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