【怖い話】新宿サイコパス #213

 

ある日、大学の友人Aと新宿駅でばったり会った。
これから渋谷に買い物に行くところだという。
いつも大学の授業で会うだけなので、せっかくだからと駅構内にあるカフェにはいった。
他愛もない話をしているうちに、Aがふと窓越しに見える駅の人混みに目をやりながら言った。
「怖いと思わないか?」
「怖い?」
「新宿駅の利用者は一日に70万人以上らしい。
年間の殺人事件の件数を1000件として、日本の人口が1億2000万。
10万人に1人が殺人を犯すと考えたら、新宿駅の利用者の中に7人いる計算になる。いつすれ違っていたっておかしくない」
Aは普段からマイペースで何を考えてるかわからないやつだったけど、そんなことを頭で考えていたとは。
俺はAが言ったことを頭で検証してみた。
こんな突飛な話に耳を傾けてしまうのは理系の性なのだろうか。
「いくら何でもいい過ぎじゃないか。検挙されてる人数や地域性を考慮したら、7人は多いと思う」
「たしかに。でも、1人はいるかもしれないな」
Aがまっすぐに俺を見つめてくる。
俺はつばを飲み込んだ。
・・・Aは何か感づいたのだろうか。
目の前にいる俺が、まさに、その1人だということに。

あれは高校の時だった。
丘の上の公園。
一度だけ関係を持ったクラスの女子から妊娠を告げられた。
自分の将来が目の前の女子と子供に縛られる恐怖でパニックになった。
故意だったのか今でもわからない。
ほぼ無意識だったと思う。
階段に足をかけた彼女の背中を身体で押していた。
彼女は50段くらいころがり落ちて頭を強く打ち亡くなった。
事故で処理された。
公園には2人きり。
誰も俺達の関係は知らない。
警察の追及はなかった。

事件の記憶がフラッシュバックして、吐き気がこみあげてきた。
「俺、そろそろいくよ・・・」
「じゃあ途中まで一緒にいこう」
俺達はカフェを出て、駅の構内を歩いていった。
ラッシュを過ぎても新宿駅はすごい人混みだった。
「さっきの話の続きなんだけど・・・」
Aが言った。
「一説によると、無差別殺人事件をおかすようなサイコパスの数は25人に1人とか100人に1人で誕生するともいわれているらしい。さっきと同じ考えで計算すると、1日に7000人以上のサイコパスが新宿駅を利用していることになる」
俺は笑った。
「そんな馬鹿な話ないだろ。そんなにシリアルキラーが巷に溢れていたら、大混乱だ」
すると、Aはフッと笑った。
「でも、もしかしたら、一人くらいとは偶然出くわしているかもな。じゃあ、俺はここで」
そう言ってAは、改札に向かう人混みに消えていった。
渋谷に行くと言っていた気がしたが気のせいだったのだろうか。
俺は大学へ向かうため山手線のホームに続く階段に向かった。
階段に一歩足を踏み出した時、背中を誰かに押された。身体がフワッと浮いた。
落ちる!そう思った瞬間、時間がスローモーションになった。
ああ、俺はここで死ぬんだ。
漠然とした確信があった。
せめて押した人間の顔を見よう。
身体を後ろにひねった。
「あっ!」と驚いたような顔をした通行人の中に、一人だけ笑みを浮かべている人間がいた。
・・・サイコパスは100人に1人。
Aの声が頭で再生された。
ああ、そうか、俺は本当に偶然、新宿駅で会ってしまったんだ。
よく見ると、笑っていたのは、Aだった。
それが俺の最後の記憶となった。

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