幽霊部員の怖い話 #283

 

俺が所属している高校の野球部には、
幽霊部員がいる。

部活に滅多に姿を表さないから幽霊部員なのではない。
本物の幽霊の部員なのだ。

夜更けの誰もいないはずの野球場でランニングしている部員の目撃証言だったり、号令をかけると一人多かったり、誰もいない草むらからボールが返球されてきたり。
そういう怪談話にはことかかない。

地元では野球の強さ以上に幽霊部員がいる野球部として有名で、部室には神棚が飾られ、壁にお札が何枚も張られていた。
練習前に神棚に手を合わせるのが野球部のしきたりとなっていたくらいだ。

先輩の話では、昔、野球部が遠征に使っていたマイクロバスが事故にあい、何人もの部員が命を落とした悲劇があったのだという。
その事故で亡くなった部員達が、今でもこの世をさまよっているのだそうだ。

そんな、ある日のことだった。
ショートでレギュラーだった先輩が自転車で転んで大怪我を負った。
今年の大会は絶望的な状況だという。
お見舞いに行った別の先輩の話では、自転車の前に急にユニフォームを来た部員が飛び出してきたのが事故の原因だと、怪我をした先輩が言っていたそうだ。
転倒してすぐに相手を確認したのに、飛び出してきた部員の姿は忽然と消えていたらしい・・・。

不可解な事故の状況に、幽霊部員の呪いなのではないかと部内は色めきたった。
毎日欠かさず神棚に手を合わせているのに、と怒る部員もいた。

部内が殺気だっていたある日、俺は家に帰る途中で部室に忘れ物をしたことに気づき、部室に戻った。
本当は戻りたくなかったけど明日の遠征試合に持っていくスパイクだったので、取りにいかざるをえなかった。

部室にはもう誰もいないだろうと思っていたのに、明かりがついていた。
誰だろうと、ソッと戸を開けると、俺と同じ2年のFが、幽霊部員の神棚に手を合わせていた。

「なにやってんだよ」
声をかけると、Fはビクッとしたように反応した。けど、俺だとわかると、ホッと安心したように息をついた。
Fはどこか思い詰めているように見えた。
「・・・何かあったのか?」
俺はFにたずねた。
しばらくFは黙り込んだ後で、口を開いた。
「もしかしたら、先輩の事故、俺のせいかも・・・」
突然の告白に返す言葉が見当たらなかった。
「・・・俺、先輩とポジション被ってるだろ。あの人がいたら、レギュラーなれないから・・・」
「先輩が言っていたユニフォームの部員てお前だったのか?」
Fは首を振った。
泣き出しそうに見えた。
「この神棚に、願掛けしたんだ。先輩が怪我でもして、それで、レギュラーになれますようにって。だから先輩は事故ったんだよ。最低だろ俺・・・」
「馬鹿言うなよ。そんなの偶然だろ。レギュラーになりたくて必死なのは、みんな一緒だ。Fが考えたようなことくらい、みんな一度は頭に思い浮かべてるよ」
「・・・でも、神棚に手を合わせて願掛けなんてしないだろ。俺、怖いんだよ、何か恐ろしいことが起きるんじゃないかって。だから、許してくださいって手を合わせてたんだ」
「大丈夫だよ。気にしすぎだって」

けど、大丈夫ではなかった。
翌日の遠征にFは姿をあらわさず、それきりFは行方不明になった。

Fの行方がわからなくなってしばらくして、俺は、恐ろしい体験をした。
夜半にたまたま学校近くを通ったら、グラウンドから声が聞こえた。
フェンス越しに見ると、野球部のユニフォームを着た集団がグラウンドにいた。
こんな時間に自主練をしているのかと不思議に思って見ていると、球がフェンスの近くに飛んできた。
ユニフォームを着た部員の一人がボールを取りにきて、俺は目を疑った。
それはFだった。
「・・・おい、F!」
声をかけても反応せず、Fは集団に戻っていった。
そして、グラウンドにたくさんいたユニフォームの集団は、霧のように消えてしまった。

・・・Fは、幽霊部員のチームでレギュラーにされてしまったのではないか。
俺はそう思っている。

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