【怖い話】高速バスの停留所にて #277
私が住んでいるのはF県の外れです。
県の都心部に行くのには、高速バスが一番便利でした。
ある年の夏、都心部のショッピングモールに行こうと、家から歩いて20分ほどのところにある、高速バスの停留所に向かいました。
停留所には、私の他に、おばあさんが一人でバスを待っているだけでした。
おばあさんは大事そうにボストンバックを膝の上で抱えてベンチに座っていました。
私は少し間を空けて隣に座りました。
音楽をイヤホンで聞いていたのではじめは気がつきませんでしたが、おばあさんは何かしゃべっているようでした。
もしかして私に向かって話しかけているのかと思い、イヤホンを外しました。
おばあさんが話しかけていたのは私にではありませんでした。
ジッパーを開けたボストンバックの中に向かって話しかけていたのです。
「さむくなぁい?」
「あとすこしでバスが来ますからね」
まるでバックの中に知り合いが入っているかのようでした。
少しぼけているのかもしれない。
そう思いました。
一体バックに何が入っているのか少し気になって、横目でうかがうようにしていると、
「・・・えぇ?隣の女の子が怖がっているって?」
おばあさんが私の方を向きました。
・・・しまった。
おばあさんに気がつかれていたようです。
「怖い?」
ニコニコして、おばあさんが私に言いました。
「・・・いえ」
私は苦笑して誤魔化し、イヤホンを耳に戻してやりすごそうと思いました。
その時です。
「怖い?」
おばあさんとは別の人の声が聞こえました。
気のせいでしょうか、声はおばあさんの膝の上のバックの中から聞こえた気がしました。
見たくありませんでしたが、目は自然とバックに向かっていました。
そして、目撃してしまったのです。
バックの中から私を見つめる長い髪の女性の生首を。
生首の見開いた目と視線がばっちりあいました。
すると、生首はニタァと私に向かって笑いかけました。
・・・それからどうやって家に帰ったのか覚えていません。
怖くて、それ以来、高速バスは使えなくなりました。
噂によると、昔このあたりでバラバラ殺人事件があって、高速バスの停留所に被害者の生首が遺棄されていたそうです。