【怖い話】「ケータイ電話貸してもらえませんか?」

「・・・ケータイ電話貸してもらえませんか」

突然声をかけられビクッとした。
夜9時過ぎ、車を公園前の路肩に止めて友達とLINEをしていた時のこと。
開いた窓のすぐ側にコートを着た若い女性が立っていた。

驚いて固まっていると、また声をかけられた。
「・・・ケータイ電話貸してもらえませんか」
か細く弱々しい声。
顔を確認してみたが、街灯が逆光になって、よく見えなかった。
何かケータイが必要な理由があるのだろう。
「どうぞ」
俺は深く考えずに女性にケータイを手渡した。
女性はケータイ電話を受け取ると、ゆっくりと番号をプッシュして、耳に当てた。
あまりジロジロ見ない方がいいかと思って、俺はあえて前を向いた。
けど、なかなか電話がつながらないのか、全く通話がはじまった声が聞こえない。
チラッと様子を見ると、女性は身じろぎひとつせず
俺のケータイを耳に当てている。
いつまでもそうしているので、だんだん怪しく思ってきた。
人のケータイを使って何かよからぬことを考えているのではないか。
そう思い、「もういいですか」と半ば強引にケータイを取り返した。
すると、女性は、
「どうもありがとう」
とつぶやいて立ち去っていった。
本当に電話をかけたのかと気になって、履歴を確認すると、知らないケータイ番号にかけた形跡があった。
再び顔をあげて女性を探すと、もう通りにその姿はなかった。
急に寒気がしてブルッと身体が震えた。
さっきまで気にならなかったのに、人通りのない暗い夜道が妙に心細くなって、俺はすぐに車を発進させて家に帰ることにした。

その話を後日、飲み会の席で友達に話したら、その友達も知り合いから似たような体験を聞いたというので驚いた。
ただし、その知り合いは、俺と違ってケータイを取り返さなかったらしい。
女は、しばらくすると、ケータイを持ったままどこかへ行こうとした。
慌てて車を降りて追いかけると、女はケータイを手に持っていなかった。
すると、聞き慣れた着信音がした。
背後の車の運転席からだった。
戻って車の中を見ると、自分のケータイ電話が運転席の座席の上にあった。
いつのまに?と思って、女を振り返ると、すでにその姿はなかったという。
着信はまだ続いている。
知らない番号からだ。
はじめは無言電話かと思ったが、耳をすませて聞いているとお経を唱えるような囁き声がして、すぐに電話を切ったという怖い話だった。

もし、あの時、ケータイを貸したままだったら、俺も同じ目に遭っていたのだろうか。
友達と2人で肝を冷やした。
その時、突然、テーブルに置いていた俺のケータイ電話が鳴り響いた。
あまりのタイミングの良さに、俺も友達も飛び上がりそうなほど驚いた。
画面を見ると、知らない番号が通知されていた。
いや、見覚えのある番号だった。
これはあの時の女性がかけていた番号だ。
電話を掛け直してきたのか。
「取ってみたら?」
友達が言った。
怖がっているのは顔を見ればわかった。
けど、確認せずにはいられない気持ちだったのだろう。
俺も同じだった。
俺は通話ボタンを押して、ケータイ電話を耳に当てた。

ガヤガヤとした騒々しい音に混じって会話する声が聞こえた。
「この前、変なことがあったんだけど、、、」
俺は耳を疑った。
間違いなく、俺の声だった。
それから、いまさっきこの店で友達に話した内容通りの会話がはじまった。
まるで、俺たちの会話を録音して流しているかのように、、、
いったいなんなんだ、、、
わけがわからなかった。
様子がおかしいのに気づいたのか、友達が俺からケータイ電話を奪って通話を切った。
「・・・ケータイ変えた方がいいよ」
友達が真面目な顔で言った。
「お前気づいてなかったみたいだけどさ、、、」
そう前置きをして友達が恐ろしいことを口にした。
俺が電話を取ると、どこからともなく女が現れ、俺が電話を聞いていたのと反対の耳元で、電話を切るまで、ずっと何か囁いていたというのだ、、、。

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