道志みちの怖い話 #236

 

神奈川県相模原市から山梨県道志村にかけて道志みちという道路が続いている。
電灯も少なく交通量も多くないので夜になるとけっこう怖い。
ある時、僕は友達4人と車で道志みちを走っていた。
僕は助手席に座っていて、運転席にA、後部座席にB、Cという感じ。
その日は結構、霧が出ていた。
突然、後部座席の二人が叫び声を上げた。
ドライバーのAは反射的に車を停めた。
僕も突然のことにびっくりした。
「なんだよ、急に声だして。危ないだろ」
「・・・なにって、お前今人ひいたろ?」
顔面蒼白でCが言った。
「見間違えだろ。人なんかいなかったよ、なぁ?」
Aが僕に同意を求めたので、うなずいた。
誰も見ていないし、そんな衝撃は感じなかった。
一方、Cも「いや、見たよな?おばあさん」とDに聞いた。
Dはガタガタと震えてうなずいた。
「いや、絶対見間違えだから!」
Aは苛立ったようにドアを開け外に出た。
車に乗っていた4人のうち、前の2人が気づかずに、
後ろの2人だけ気づくなどありうるだろうか。
僕は疑問だった。
ヘッドライトの明かりの中にAの姿が浮かんだ。
周囲を見回している。
首を傾げている。
やはり、誰もいなかったようだ。
「やっぱり誰もいないし」
Aが運転席に戻ってきて苛立ったように言った。
「いや、本当に見たんだって!」
「いい加減にしろよ!」
喧嘩が始まりそうだった。
止めないとと思った時、Aが唐突に静かになった。
バックミラーを見ながら、固まっている。
「どうした?」
僕が聞くと、Aは叫び出し、車を急発進させた。
猛スピードで加速していく。
Aは何度もバックミラーを確認している。
「どうしたんだよ!?」
僕はAの運転が怖くなって、たまらず大声を出した。
「ばばあがいたんだよ!車の後ろに。血まみれのばばあが」
「やっぱり!おい、引き返せよ!救急車呼ばないと」
後部座席から声が飛んだ。
「馬鹿!あれがまともな人間なわけあるか!だいたい前に乗っている二人が気がつかないわけないだろ!」
後部座席の二人は納得したのか静かになった。
Aはちらちら後ろを気にしながら興奮した様子で運転を続けた。
対向車線にはみでるのもおかまいなしで、生きた心地がしなかった。
僕は運転の交代を申し出た。
僕が運転し始めてから、車内は重たい沈黙が流れた。
みんな心ここにあらずという状態だ。
しばらくすると、疲れが出たのか他の3人は眠ってしまった。
一人で運転するのは寂しかったけど、いがみあうよりはいい。
と思っていた矢先、僕は道を見失ってしまった。
Aの車はナビがないので困った。
助手席のAを起こすのもはばかられて、どうしようかなと思っていたら、ちょうど通りを歩いている地元の人がいた。
道を聞こうと思い、スピードをゆるめていった。
助手席側の窓を開けて、声をかけようと思った時、ガバッとAが起き上がり、「窓開けるな!」と叫んだ。
なんで?と思ったけど、反射的に窓を開けるのを中断した。
次の瞬間、助手席側の窓に血まみれの老婆が張りついて、こちらを見てニタニタと笑っていた。
後のことはよく覚えていない。
とにかく車を走らせて逃げた記憶だけがうっすらとある。
二度と道志みちは通るまいと思っている。

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