【怖い話】【心霊】死人に口なし #198

2017/09/11

 

死人に口なしなんて言うけどさ、あれは嘘だね。
だって、現にいま、しゃべってんだから。
そうさ、俺はもう死んじまってるんだ。・・・社会的に?あんた、おもしろいこと言うね。肉体的にもだよ。そう、幽霊ってこと。
あんたも運が悪いよな。俺が死んだアパートに引っ越してくるんだから。
事故物件ってやつだよ。
・・・え?そんな説明なかったって。それはかわいそうにな。
今時は悪どい不動産も多いからな。
おっと、自己紹介がまだだったな。
俺はカワハラヨシオっていうんだ。
もともと3丁目の町工場で板金工をやってたんだが、手を怪我しちまって、仕事ができなくなってな。
ひどい社長だよ。俺のミスでもないのに、治療費も退職金もケチりやがって。
あの頃は、酒に溺れたね。ああ、そりゃ、ひどかったさ。
思い出したくもねえ。結局、女房子供に逃げられ、この体たらく。
あげくの果てには酔って風呂場で転んで、オタブツだ。
とんだお笑いぐささ。ハハハ。
俺は笑えねえけどさ。
しかも、死んで極楽にいければよかったのに、ご覧の通り、この有り様さ。
・・・なんだか喉が渇いていけねえや。兄ちゃん、酒はないのかい?
・・・なに?幽霊が飲めるかって?おい、兄ちゃん、それは俺を馬鹿にしてんのかい。頼んでんだから、持ってくりゃいいんじゃねえのかい!
・・・おぅ、それでいいのさ。
・・・おい、コイツは水か?何の味もしねえじゃねえか。
酒に間違いないって?俺をからかってるんじゃねえだろうな?なに?ラベルを見ろ?
・・・ちきしょう!何の味もしねえ。くそが!幽霊は飲み食いするなってか。
なら、俺は何を楽しみにすればいいんだ?な、兄ちゃん、そう思わないか?
なんで、こんなに世の中は不公平なんだ。
・・・お、なんだい、そのツラ。愚痴はききたくないってのか?
え、おい、やるってのか?兄ちゃん、こちとら幽霊なんだぞ。
化けてあんたを取り殺そうか?
・・・ったく。近頃の若いやつは忍耐力ってもんがねえよな。
味がしなくてもかまわねえ。酒、どんどん持ってきてくれや。

・・・なんとも不思議な感覚だった。
引っ越した初日の夜、僕は、突如あらわれた自分を幽霊だと語る人物の話に付き合わされているわけだが、見た目はどう考えても10歳くらいの女の子にしか見えない。
彼(または彼女)自身気づいていない事情がまだありそうだ。
今夜はとことん話に付き合ってみるとしよう。

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