第38話「雨戸」

2016/09/01

俺の実家の隣の家の話。

最近、隣の家の2階の雨戸がずっとしまってるのに気がついたんだ。
朝も昼も夜も。
俺が知ってる限り、その部屋って、俺より2つか3つ歳上の息子さんの部屋だったはずで、小学校の時、たまに遊びに行ったのをぼんやり覚えてる。
隣の息子さんが大学に進学して家を出ちゃったから、まったく付き合いはなくなってたけど、息子さんがいなくなってからも雨戸を閉めたりはしてなかったはずだからおかしいなと思って、なんとなく母親に聞いてみたら、近所の噂では隣の息子さんが実は就職に失敗して実家に帰ってきてたらしく、引きこもりになっちゃったらしいんだって。
だから、ずっと雨戸がしめっぱなしになってたのかと納得した。
まあ、でも、他人事だから、大変そうだなぁと思った程度だった。

そんな、ある日。真夜中に目が覚めたんだ。
外から音がして、ふと窓の外を見たら、隣のおばさんが、玄関から出てくるところだった。
両手にゴミ袋を2袋ずつ持ってて、ゴミ出しに行くみたいだった。
時計見たら午前2時。朝出してくれーと思いながら、俺は、もう一回寝た。

けど、次の日、起きてびっくりしたんだ。
ずっと閉まっていた息子さんの部屋の雨戸が開いてたんだ。
気になって部屋の中がどうなっているのか遠目に見たら、空き部屋みたいだった。
なんだよ、息子さんが引きこもりとか超デマじゃんって、その時は思った。

それから一週間くらいした後、妙な噂を母親から耳にした。
隣の息子さん、ちょっと前に家出しちゃったらしい。
本当かどうかはわからない。
誰も、最近、隣の息子さんの姿を見かけたわけではないし、そんなプライベートなこと隣のおばさんに直接聞けるわけないしね。

で、ふっと思い出したんだ。一週間前、夜中にゴミ出ししてた時のおばさんの顔が、ちょっと変だったこと。
まるで、こみ上げてくる笑いをこらえてるみたいな、そんな顔だった。
嫌な想像が頭をよぎった。おばさんが両手に持ってたゴミ袋と息子さんの家出。本当に、隣の息子さん、家出なんだよな・・・。

最近、隣のおばさんをよく見かける。
すごく生き生きしてて、明るく「こんにちは」って声かけられるんだけど、それが俺は逆に怖い。
もちろん、家出したことになってる息子さんの行方なんて、誰も知らない。
けど、どうか家出であって欲しいと俺は願ってる・・・。

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