第77話「犬は鳴く」

会社の同僚が最近、飼い犬の鳴き声で困っていると相談してきた。
ちゃんとしつけしていて、とてもおとなしい犬だったのに、急に鳴き止まなくなったという。
寝れないし、近所迷惑だし、と本当に困った様子だった。
私は、慰め半分、冗談半分で犬の鳴き声を人間の言葉に翻訳してくれる機械を同僚にプレゼントしてみた。同僚はさすがに苦笑いしていたけど、何もしないよりはいいと受け取ってくれた。

それからしばらくして、その同僚は急に会社にこなくなった。
無断欠勤だという。私は心配になって同僚の直属の上司と一緒に自宅に行ってみることになった。

同僚の家に上がると、私は目を疑った。
部屋中ひっくり返したように荒らされていて、そこら中に血の跡が残っていた。
まるでドラマの猟奇殺人の現場のようだった。
しかし、同僚も彼の家族も誰一人として家にはいなかった。同僚が飼っていた犬の姿もどこにもなかった・・・。
上司の人は事件を確信し警察に連絡をしにいった。
その時、私は同僚にプレゼントした犬の鳴き声を翻訳する機械が棚の上にあることに気がついた。
手に取ってみると、電源はオンになっていて、ディスプレイに訳が表示されたままになっていた。

イエノナカニバケモノ

ディスプレイには確かにそう表示されていた・・・。

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