出前の怖い話

広告代理店につとめるFさんは、最近、夕食をネットの出前に頼るようになった。
仕事が忙しく、帰るのが遅いので、夕飯を作っている時間がもったいないと思うようになったのだ。
ネットの出前なら決済もクレジットカードで簡単にできてお手軽だし、お店や品数も豊富なので、飽きることもなかった。
あまり頼りすぎては栄養が偏るのではとも思うが、ラクなものだから、なかなかやめられないでいた。

そんなある日のことだ。
その日もクタクタになって自宅に帰ったFさんは、いつも使っている出前アプリで中華を頼むことにした。
はじめて注文するお店だった。
レビューの評価は星3つ。
よくも悪くもないが、どんな味なのだろうかという興味だけで注文を決めた。

注文を完了すると、到着までおよそ30分と案内があった。
SNSをチェックしたり、友達のLINEに返事をしたりしていると、インターフォンの呼び出し音が鳴った。
Fさんの住むマンションは10階建てで、Fさんの部屋は6階にある。
セキュリティは万全で、エントランスのゲートをくぐったあとも、エレベーターの前のパネルで部屋番号を指定して開錠してもらわないと、配送や出前の人達は目的のフロアの階数が押せない仕組みになっている。
Fさんは解錠するため、モニターを確認しに立ち上がった。
ところが、モニターには誰も映っていなかった。
ただ無人のエントランスが映っているだけだった。
声も聞こえない。
出前担当の人がカメラの死角に立っているのだろうと思ったFさんは何も考えず解錠のボタンを押した。
それからしばらくして再び呼び出し音が鳴った。
次はエレベーター前での解錠だ。
ところが、またしてもモニターには誰の姿も映っていない。名乗りも上げない。
不思議に思いつつ、もう一度呼び出されて解錠するのは面倒だったので、Fさんは解錠ボタンを押しておいた。
ちゃんと出前担当は部屋まで来るだろうか。
心配しながら待っていると、部屋のインターフォンが鳴った。
やはり、死角にいただけか。
Fさんはドアストッパーを外し鍵を開けて、玄関のドアを開けた。
目が点になった。
玄関前に出前担当の姿はなかった。
廊下を見回しても誰もいない。
狐につままれたような心地でいると、インターフォンの呼び出し音が聞こえた。
モニターにはエントランスに立つヘルメット姿の男性の姿があった。
応対すると、Fさんが注文した中華店の名前を告げられた。
彼が出前担当なのだとしたら、今さっき訪ねてきたのは誰だったのか。
Fさんは気味が悪くて、背筋が寒くなった。

それから、変わったことや心霊現象などがあったわけではないというが、出前を頼む頻度は確実に減ったという。
もしかしたら、出前に偏った食事を改めろという守護霊か何かの警告だったのかもしれないとFさんは考えているという。

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