危ない求人 #013

2017/09/29

 

これは俺が大学生の時の話。

大学のサークル仲間と居酒屋で飲んだ帰り、時刻はすでに深夜を回っていたと思うが、大学にあるサークルの部屋で飲み直そうという話になって、5人で話しながらだらだらと大学に向かって歩いていた。
俺が通っていたのは田舎の国立大学で、都市部から離れた山の中腹にキャンパスがあり、くねくねとした山道を上っていかないといけない。
ひとけはほとんどなくて、時折、運送会社のトラックが通るくらいだった。

誰かがバイトの話を始めたのをきっかけに、各自が経験したアルバイトの苦労話になった。テスト前にもかかわらず朝方までシフトを入れられるコンビニバイトや、知り合いの紹介でバイトを始めたらオレオレ詐欺の出し子だったという笑えない話まで、話題は尽きなかった。
そして、いつしか話題は、バイトにまつわる怖い話に移っていった。
病院でホルマリン漬けの遺体を回すバイトは本当に存在するのか、そんな他愛もない話がきっかけだったと思う。
「絶対、応募しちゃいけないバイトって知ってるか?」Dが言い始めた。
Dの話によれば、その求人は、アルバイト求人のWEBサイトの片隅にひっそりとあるのだという。
企業名はなく、「未経験歓迎。高額保証」を唄うだけで、仕事内容も載っていない、明らかに怪しい求人だった。
興味本位で応募のボタンを押してしまうと、求人主からすぐに電話がかかってくるのだという。
腰の低い中年の男が、応募への感謝と、一度会って話しがしたい旨を伝えてくるのだが、そこでも具体的な仕事内容には一切触れず、1日で数万円稼げるという待遇の良さをアピールするだけだった。
「人当たりのいい感じの男に騙されて、会うだけならいいかって面談に行ってしまうと、もう手遅れ。引き返せないんだよ・・・」Dは、もったいぶるような調子で言った。
俺は焦れて聞いた。「・・・で、何させられるんだよ?そのバイト」
途端にDは歯切れが悪くなった。
「そこは、あれよ。色んなパターンがあってさ、電話の男が殺人鬼で、面談に行くと殺されるとかさ、一番多いのは、求人を出しているのは実は人身売買組織で、人攫いの手伝いをさせられるって話・・・」
「結局、単なる怪談じゃんか。全然、リアルじぇねえよ」Cが笑って言った。
皆が笑う中、ただ一人だけ笑っていないヤツがいた。Bだった。
さっきまで陽気だったBだけ、俯いて黙っている。
よく見ると、熱帯夜なのに、ガタガタと震えている。
「どうしたんだよ。酔って気持ち悪いのか?」Aが尋ねた。
「・・・ごめん。ごめん」Bは何度も何度もそうつぶやいた。
みんな立ち止まって、困惑してしまった。

その時だった。俺は、突然、くらくらとする眩暈を感じた。
立ちくらみなんてレベルじゃない本当にヤバいヤツだ。
そして、Dが突然、道に倒れるのが見えた。続いてAとCも。
Bは相変わらずガタガタと震えて「ごめん、ごめん」と繰り返している。
何か変なクスリでも飲まされたのか・・・?そんな考えが浮かんだ。
俺は、フラフラとよろけた。
その時、ぼんやりとした視界に、走ってくる車のライトが見えた。
黒く大きなヴァンだった。
路肩に停車したヴァンから黒づくめの男達が降りてきて、慣れた手つきでD、A、Cを抱えて車に連れ込んでいく。
「・・・B、お前」
「・・・ごめん」Bは本当に申し訳なさそうに俺に向かって言った。
俺の方に男達が向かってくる。
俺は、意識を失わないよう必死に抵抗し、フラフラとよろめいた。
歩道の手すりが身体にぶつかった。
手すりの向こうは急こう配の斜面のはずだ。
俺は、必死に、手すりを乗り越えた。
身体に何度も強い衝撃を感じた。
覚えているのはそこまでだった・・・。

俺は、3日後、病院で目を覚ました。
全身打撲だったけど、一命はとりとめた。
俺は警察や親に、事情を説明したが、酒飲みの妄想だと取り合ってもらえなかった。
事件当日、飲んでいたはずの居酒屋に俺達は来ていないことになっていて、防犯カメラにも映っていなかったと警察の人から聞かされた。
Bは、おそらく、絶対応募してはいけないバイトの求人に応募してしまったのだろう。
黒服の男達が何者なのかはわからない。
だが、A、B、C、Dの4人は、以前、行方不明のままだ・・・。

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