これは、先日、女友達4人で沖縄旅行に行った時に体験した怖い話です。
私たちが宿泊したのは那覇から車で1時間ほどの読谷村にあるリゾートホテルで、
赤い屋根と白亜の壁でできた建物はイタリアやスペインなどの南欧リゾートを感じさせてくれました。
部屋のバルコニーからはエメラルドブルーの海が一望できました。
ホテルにはプライベートビーチがあり、
透明度の高い海に日光が反射してとてもキレイで、
みんなで写真を撮った後、泳ぎました。
しばらく心地よく水遊びをしていると、
突然、悲鳴が上がりました。
「なにかが足に触った」
Aちゃんがそう言って急いで海から上がりました。
クラゲか海藻だろうと私を含めた残りの3人は思いましたが、
Aちゃんは「誰かの人の手みたいだった」と怯えたように言いました。
けれど、その周辺で泳いでいたのは私達だけで、
他には人などいませんでした。
Aちゃんの勘違いだろうと私は思いました。
それからAちゃんは海に入るのを嫌がるようになり、
なんとなくみんなのテンションも下がったので、
部屋に戻ることにしました。
部屋は私とAちゃんが相部屋でした。
Aちゃんは部屋に戻ってシャワーを浴び、
着替えを済ませた後も、
まだ海での出来事を引きずっているようで、
暗い顔つきで黙って海を眺めていました。
せっかく沖縄まで来て、
そんな暗い顔しなくてもいいのにと内心思いつつ、
私はなんとかAちゃんの元気を取り戻そうと声をかけました。
「なに見てるの?」
すると、 Aちゃんは、返事をするかわりに海を指さしました。
Aちゃんの指の先を目で追うと、
海の浅瀬に立つ豆粒のような人影が見えました。
人影は、何をするでもなくジーッと海の中に立っています。
「アノ人がどうかした?」
そう尋ねると、 Aちゃんは何も返事をしませんでした。
夕飯の時も Aちゃんはそんな調子で、
心ここにあらずの調子で機械的にご飯を口に運ぶだけで、
残りの3人は顔を見合わせて困惑するだけでした。
夕食後、 Aちゃんのことは心配でしたが、
同じ部屋にいるのが気詰まりで、
私は隣のBちゃん、Cちゃんの部屋に行きました。
3人であらかじめ買っておいたお酒を飲みましたが、
Aちゃんがあの様子ではおいしいわけがありません。
3人とも苦い顔をして時間だけが過ぎていきました。
夜も更け、部屋に戻ると、
部屋は照明が落とされていて Aちゃんはすでにベッドで寝ているようでした。
私も横になりました。
しばらくは悶々としていましたが、
波の音を聞きながら目を瞑ると、
やがてゆるやかな眠気がやってきました。
どれくらい時間が経ったでしょう・・・。
なんだか息苦しくて目が覚めました。
目を開けて、ハッと息を呑みました。
ベッドのすぐ横に人影が立っていたのです。
「 ・・・Aちゃん?」
人影は黒いシルエットとなっていて顔が見えませんでした。
人影は黙ったまま、両手を私の方へ伸ばしてきました。
その時、バチンとブレーカーが落ちたような音がして、
人影の動きが固まりました。
急に思い直したように人影はクルリと向きを変えると、ベッドに戻りました。
冷や汗がドッと吹き出ました。
今、人影が私の首を締めようとしていた気がしたのです。
考えれば考えるほど、そう確信しました。
恐怖とパニックで涙が溢れました。
私は事情を話して隣の部屋に避難させてもらいました。
その後はとうてい眠れるわけもなく、
しばらくして空が明るくなり始めました。
いつまでも部屋に籠っているわけにもいかないので、
私はBちゃんとCちゃんについてきてもらって、
恐る恐る Aちゃんがいる部屋に戻りました。
部屋に入った瞬間、
「おはよう!」
と明るい声に出迎えられ面食らいました。
Aちゃんが手鏡に向かってメイクをしていました。
「昨日、私いつ寝たんだろう?全然覚えてないんだけど」
Aちゃんは、元の明るい Aちゃんに戻っていました。
一体、昨夜、私が体験した出来事は何だったのでしょうか。
拍子抜けした私達はみんなで朝ご飯を食べに行きました。
昨日の様子が嘘のように元気にしゃべるAちゃんの姿に安心したような肩透かしを食らったような不思議な気持ちでした。
ひとまず、これで今日は楽しく沖縄を満喫できる、
そう思って部屋に戻り荷物をまとめていた時、私は気がつきました。
国際通りでお土産に買った魔除けのシーサーの置物が真っ二つに割れていたのです。
単なる偶然なのでしょうか、それともシーサーが悪いモノを祓ってくれたのでしょうか・・・。
・・・それは今でもわかりません。
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