【怖い話】恐怖の目安箱
私が教員として勤める中学校で起きた恐ろしい出来事です。
その中学校には、廊下に「みんなの声」という木箱が置かれていました。
箱の上に紙を入れられる細い穴が開いていて、鍵がかけられているので中を見ることはできません。
要は匿名で投書ができる生徒用の目安箱でした。
けど、不思議なことに、
私が赴任してから、
誰かが鍵を開けているところや、目安箱に投書された声に教員が対応しているところを見かけたことがありませんでした。
職員会議で話題になったことも一度もありませんでしたし、そもそも誰が管理しているのかも不明でした。
ある時、赴任歴が長いベテランの先生に、目安箱について尋ねてみました。
すると、その先生も目安箱が開けられているところや、誰が設置したのかをご存知ありませんでした。
気がついたらあったそうです。
誰かの思いつきなのだろうと今まであまり気に止めていなかったと、その先生はおっしゃっていました。
他にも何人かの先生方に聞いてみると、みんな同じような反応でした。
結局、誰が管理しているかもわからず、箱は一度も開けられていないようでした。
「鍵を壊して開けてみましょうか?」
ひとりの先生の一言から、目安箱を開けてみることになりました。
南京錠をハンマーで壊して、目安箱を開けてみました。
想像を上回る大量の紙が出てきました。
比較的新しい紙から黄ばんだ古い紙まで混ざっていました。
本当に今まで一度も開けられたことがなかったのかもしれません。
適当な紙を取って、内容を確認しました。
『〇〇が不幸になりますように』
目を疑いました。
目安箱は不満の捌け口になりがちですが、ここまで露骨な内容とは思いませんでした。
他にも何枚か読んでみましたが、似たようなものでした。
目安箱というより、他人への恨み言を吐き出すために使われていたようでした。
その場にいた他の先生方もげんなりしてしまったみたいで、目安箱の投書をどうするかは、次回の職員会議で決めましょうと、大量の投書はダンボールに詰めて箱と一緒に職員室の片隅に置かれました。
その日からでした。
学校で不可解なことが起きだしたのは。
教室の窓ガラスが突然割れて複数の生徒が怪我をした同じ日に、別の生徒が教室の窓から飛び降りて自殺未遂を図りました。
騒ぎが収まりきらない翌日に、2年の英語の先生が花壇に車をぶつけ骨折。
その日の放課後には、男子生徒同士の喧嘩が発展し、グループの一人の生徒が救急車で運ばれる事態になりました。
日々何かしら事件が起きるのが学校ですが、
さすがにおかしいと教職員の誰もが感じました。
そして、誰かが言いました。
「例の目安箱を開けたからなんじゃ・・・」
思春期の心が抱えた鬱屈を長年溜め込んだ箱・・・。
禍々しい力を備えていたとしても不思議じゃない、私もそんな気がしました。
投書は全て燃やすことに決まり、
事務員さんが、投書が満杯に入ったダンボールを校舎裏の焼却炉で燃やしにいきました。
これでおかしなことが収まればいいのだけど、そう溜息をつきながら、デスクで仕事に戻ろうとした時、電話が鳴りました。
取ると、事故を起こして入院している英語のS先生でした。
「投書は今どうなってますか!?」
名乗るやいなや興奮した様子でS先生はまくしたてました。
全て燃やして処分することになりました、と告げると、「今すぐ止めてください!早く!」
・・・私は校舎裏に全速力で走りました。
角を曲がって目に飛び込んできたのは、黒い煙でした。
真っ赤な炎によって、投書が書かれた紙は全て黒ずんだ炭クズにかえられた後でした。
S先生の言葉がよぎりました。
「私の事故があまりに不可解な状況で起きたので、知り合いの霊媒師に相談してみたんです。そうしたら、私の名前が書かれた紙が破られたりグシャグシャにされたからではないかと言われました。長年の負のエネルギーが紙に蓄積され、呪符のようなものになってしまった可能性があるらしいです。もし、全部に火などつけてしまったら何が起きるか・・・」
私はその場で呆然と立ち尽くすしかありませんでした。これからどんな悲劇がこの学校を襲うのか想像もつきません。
願わくば、私の名前が書かれた紙がないことを祈るばかりです。
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