【怖い話】すべての道は京都につうず

これは知人男性のAさんの話。

Aさんは埼玉県で生まれた。
ごく普通のサラリーマン家庭だった。
Aさんが小学校6年生の時、修学旅行で京都にいった。
いくつも名跡を巡ったが、歴史的な背景やストーリーを知らない子供だった当時、面白かった記憶はなかった。
Aさんが中学に入るタイミングで、父親の転勤が決まった。
Aさん一家は埼玉から仙台に移り住んだ。
中学2年の時、修学旅行の旅先が発表された。
京都だった。
またかと内心思った。
引っ越し前の同級生達が修学旅行で沖縄にいくと聞いていたので、Aさんは余計にがっかりした。
二度目の京都。
歴史を少し学んだので、小学生の時よりは楽しめたが、前にも行った観光名所ばかりだった。
中学3年の時、また父親の転勤が決まった。
今度は北海道だった。
父親の働く会社が全国に事業所を構えているので仕方ないとはいえ、単身赴任してくれよという気持ちがないわけではなかった。
仙台に残って高校に通うという選択も考えたが、家族で移りたいという両親の希望をのんだ。
高校2年の時、修学旅行先が発表されてAさんは唖然とした。
またも京都だった。
道内から出たことがない同級生達は嬉しそうな反応を見せる中、Aさんは辟易としていた。
案の定、小学校中学校で二度、観光済みの場所ばかりを巡ることになった。
小中高の修学旅行が全て京都だったというのは話のネタとしては受けたが、とうのAさんはずっとモヤモヤしていた。
大学受験では偏差値的に京都の私立大学も候補にあったのだが、意図的に外した。
これ以上、京都との奇妙な縁を強めたくなかった。
Aさんは都内の大学に通うことになり、バイトをしながら一人暮らしを始めた。
大学入学から半年、彼女ができた。
彼女の方が、Aさんを気に入ってくれて知人ヅテに紹介されたのだ。
はじめのデートは順調だった。
Aさんも彼女の人柄が好きになり、しっかり付き合っていきたいと感じた。
ところが、2回目のデートの時。
出身地の話になり、彼女の出身が京都だと知った。
Aさんの身体に悪寒が走った。
また、京都。
偶然に決まっている。
そう思うのだが、この奇妙な符合はなんなのだ。
彼女とのつきあいに出身は何も関係ないとわかっているのだが、彼女が京都出身と聞いてから、なぜかうまくいかなくなり数週間で彼女の方から離れていってしまった。
京都に縁があるというのは強迫観念にすぎないとわかっていた。
ささいなことにとらわれて大切な人間関係を台無しにしてしまってはよくないと自省した。
そうは思うのだが、よく通うスーパーの福引きで日帰り旅行を当てれば行先が京都だったり、旧友から久しぶりに連絡が来たと思ったら京都の大学に通っていたり、Aさんを京都と結ぶエピソードはその後も続いた。
それから半年後、Aさんに好きな人ができた。
バイト先の先輩だった。
スラッとして、切れ長の目をした美人だった。
告白したいと思った。
が、気持ちを伝える前に、Aさんは確認をした。
「先輩の出身てどこなんですか?」
「言ってなかったっけ?京都だよ」
Aさんは言葉を失った。
またか、、、。
なんなんだ、この偶然は。
自分を京都に引っ張る超自然的な力が働いているとでもいうのか。
それとも、前世で京都に暮らしていたとでもいうのか。
結局、Aさんは先輩に告白しないまま、そのバイト先を辞めてしまった。
大学2年の時、合コンで知り合った千葉県出身の同級生と付き合いを始めた。
相性もよく順調につきあいを重ねていったが、夏休みに彼女がこう切り出した。
「ねぇ、今度、京都に旅行にいかない?」
Aさんは腕に鳥肌が立つのを感じた。
まただ。
また何かが自分を京都に向かわせようとしている。
被害妄想だと冷静な自分の声がする。
きっと偶然が重なっただけなのだろう。
けど、本当に単なる偶然なのか。
何か隠された意味や、理屈では説明できない力が働いているのではないか。
その思いは払拭できない。
結局、彼女には、なんやかんやと理由をつけて京都旅行にはいかなかった。
それがきっかけだったかはわからないけど、数ヶ月で彼女と別れることになった。
就職先は、京都と関わりがない会社にしようと決めていた。
考えてみたら、京都を避ける理由などないのだが、自分が意図しない形で引っぱられているのがどうにも嫌で抵抗したかったのだと思う。
数社受けてみて、都内の新興ベンチャー企業から内定をもらった。
社会人になって数年、しばしば京都というフレーズは耳にしたが、関わらないよう避けていた。
ところが、数年後、Aさんが勤めていた会社の規模が拡大し地方に支社を構えることになった。
よりによって支社ができたのは京都で、Aさんは管理職候補として京都行きを命ぜられた。
仕事とあって、しかも昇格がかかっているので、Aさんは断ることができなかった。
Aさんは、渋々、京都行きを決めた。
引っ越し先を探すため京都に向かったAさんは、どうせ京都に行くなら、自分が京都に引かれる理由を知りたいと思った。
家探しのついでに京都の街を散策した。
もし何か不思議な力が自分を京都と結びつけているなら、京都市内を巡っているうちに、その力と巡り合うだろうと考えたのだ。
しかし、いくら不動産物件を巡っても、それらしい巡り合わせはなかった。
結局、支社からほど近い場所の賃貸マンションに決め、東京に戻るため京都駅に向かった。
ところがその道中、原因不明の腹痛に襲われ、病院に運ばれることになった。
精密検査を受けたが原因は不明。
数日間、検査入院をして退院した。
退院して東京に戻ろうと思ったら、新しい支社の開業準備のため京都に残ってくれと会社から連絡があった。
ビジネスホテルの宿泊代は出るしもともと一人暮らしなので困ることもなかった。
結局、京都滞在が1週間伸びた。
支社の開業準備も落ち着いたので、Aさんは東京に戻って引越し準備に入ろうとした。
ところが、その日、予定していた夜の新幹線が信号故障トラブルのため運休となってしまった。
1泊京都滞在が延びた。
翌日早朝の便で帰るため、京都駅に向かっていると、歩道を走っていた自転車と接触事故を起こした。
幸い軽傷だったが、警察の事情聴取などで時間が取られ、手続きが終わったのは昼過ぎだった。
うだるような暑さの京都の市内を歩きながらAさんは考えた。
・・・もしかしたら、京都から出ようとするのをなにかの力で止められていないか。
東京に帰ろうとすると、腹痛が起きたり事故にあったりしている。
これもまた奇妙な偶然にすぎないのかもしれない。
しかし、今まで京都と謎の縁があったのは事実で、いざ京都に来てみたら、この有様だ。
なにかおかしなことが起きているとAさんが想像を膨らませるのも無理がなかった。
そんなことを考えながら、Aさんは京都駅前のターミナルを歩いていた。
すると、向こうから若い男が走ってくるのが見えた。
手にバックを抱え、反対の手にハンティングナイフを握りしめている。
驚いたAさんは、慌てて踵を返し、駅と反対方向に逃げ出した。
野次馬に聞いてみると、駅近くで強盗事件が起きて、大捕物が行われていたのだという。
もしあのまま京都駅に向かっていたら、ナイフで刺されていたかもしれない。
そして、Aさんは確信に至った。
何かの力が自分を京都から出さないようにしているに違いない。
もし京都から出ようとしたら、最悪、死ぬかもしれない。
周りの人間が聞けば滑稽な話だろうが、Aさんは全身に戦慄が走るほどの恐怖を感じていた。
Aさんは、怖くて京都を出ようとするができなくなってしまった。
東京の住居の引き払いは、両親にお願いして対応してもらった。
「仕事が忙しくて」と頼んだら、息子からの久しぶりの連絡が嬉しかったのか両親は二つ返事で引き受けてくれた。
なので、東京に戻ることもなく、Aさんは住まいを京都に移した。
新支社での仕事が始まり、数ヶ月、Aさんはいまだに京都から出ずにいる。
今のところ、京都を出る用もなく、事故や事件に巻き込まれずに済んでいる。
もし次に京都を出ようとしたら、何が起きるのかAさんは不安で仕方がないという。
Aさんは、時間を見つけては、自分が京都に囚われている理由を探し続けている。
果たして、Aさんの妄想なのか、本当に超常的な力がAさんを京都に縛りつけているのかは誰にも知りようがない・・・。

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