【怖い話】ライブカメラ

これは、私の知り合いのR川さんという男性にまつわる怖い話です。

R川さんは、動画配信サイトでライブカメラの映像を見るのが趣味でした。

YouTubeなどの動画配信サイトには、アフリカのサバンナのライブ映像や世界各国の都市のライブ映像など、たくさんのライブカメラの中継映像がアップされています。
日本のものでも、渋谷の街を映したライブや山のライブなど、たくさんのスポットのライブ中継映像を見ることができます。

R川さんは、気がつくと1時間以上、ライブ映像を見ている時もありました。
とりたてて何かが起きるわけでもなく、ただ風景が流れる時間も長いのですが、ライブ映像をボーッと眺めていると、世界のリアルタイムとゆるやかな繋がりを感じることができて孤独な気持ちが少しだけ和らぎ荒んだ心が落ち着くような気がするのだそうです。

そんな、ある日の夜。
R川さんは、ある動画配信サイトで新しいライブ映像を発見しました。

舗装された山道を定点で撮影したライブ映像でした。
左右を雑木林に囲まれたアスファルトの道がスーッと伸びていて、映像の奥ではトンネルがぽっかりと口を開けていました。
日本の道なのは間違いありませんが、詳しい場所は動画のタイトルや概要欄を見ても載っていませんでした。

この手の”道”を映すライブ中継は以前にも見たことがありましたが、有名観光道路などがほとんどで、どこの道なのかもわからない名もなき山道を映している動画は珍しい気がしました。

R川さんは、いつもするように、ぼんやりと道のライブ映像をしばらく眺めてみることにしました。
街灯も少なく、どこか寂しい印象がする山道でした。
それから30分くらい何も起きず、ただ同じ映像が流れているだけでした。
そろそろ別のライブカメラをチェックしようかと思った時、ふいに映像の中の歩道に女性の後ろ姿が現れました。
ロングスカートを履いた髪の長い女性が、奥のトンネルに向かってまっすぐ歩いていきます。
時刻は日付が変わろうという頃です。

(仕事帰りだろうか。それにしても、こんな夜更けに女性が寂しい山道を一人で歩くなんて危ないじゃないか)

R川さんは、女性の動向が気になってしまい、もうしばらくライブを見てみることにしました。
女性の姿はどんどん小さくなっていき、やがて、トンネルの中に吸い込まれるように消えていきました。

その翌日、R川さんは、なんとなく気になって、昨日視聴した山道のライブ映像を再び訪れてみました。
相変わらず寂しい風景が延々と流れているだけでしたが、しばらく見続けていると、またも昨日と同じ女性が映像の中に現れたのです。
時刻はちょうど昨日と同じ12時です。
やはり仕事帰りなのだろうとR川さんは思いました。
女性は、昨日と全く同じように同じ道を歩いていきトンネルの奥へと去っていきました。

その翌日も、まさかいるわけがないと思いながらも、12時頃にライブ映像を訪れてみると、なんと三度、同じ女性が歩いていました。
女性はその日もトンネルの中に吸い込まれるように消えていきました。
三日連続で同じ女性をライブカメラで見かける、そんな不思議な縁にR川さんはすっかり心が躍りました。
R川さんと女性がリアルタイムで繋がっていて、まるで、二人だけの秘密ができたような感覚がしました。

(はたからは異常なことをしているように見えるかもしれないな)

そう思いながらも、R川さんはそれから毎日、山道のライブ映像をチェックして女性が安全に帰る姿を確認するようになりました。

日を追うごとに、後ろ姿しか見えない女性への想いは募っていきました。
そうなると、女性がどこの誰なのか、その素性が気になってきました。

(せめて、この映像がどこの道なのかわからないだろうか)

そう思って、R川さんは、ライブ映像の風景を写真撮影して、画像検索をかけてみることにしました。

すると、1つの場所がヒットしました。
Googleマップのストリートビューで調べてみるとY県にライブ映像とそっくりな風景があったのです。
雑木林の茂り方、トンネルや標識の位置など、細かい部分まで一致していて、R川さんはライブカメラの場所を突き止めたと気持ちが昂りました。

ところが、地図で該当の場所の周囲を確認して、R川さんは眉をひそめました。
トンネルの向こうにはダムがあるだけで道が終わっていたのです、、、。
ストリートビューで見てみても、トンネルの先には民家一つなく、関係者以外立ち入り禁止と案内がついた門扉があって、その先は暗い水をたたえたダムに繋がっているだけでした。

(だとしたら、毎晩12時に、あの女性はどこに向かっていたんだ・・・)

常識的に考えれば、可能性としてあるのは、女性がダムの関係者だということですが、毎夜1人で女性がトンネルを抜けてダムに向かうことなどあるだろうかと違和感は拭えませんでした。

気づかないうちに、R川さんは背中にビッショリと冷や汗をかいていました。
自分は見てはいけないものを見てしまったのではないか。
そんな恐怖をヒシヒシと感じました。

二度と、このライブ映像を見るのはやめよう。
そう決心しましたが、12時近くになると、R川さんは、ライブ映像を確認しないといけないのではという強迫観念に襲われだしました。
不可解な事象の正体を確認して恐怖心を払拭したいのか、それとも、何かに取り憑かれているからなのか、自分でもよくわかりませんでした。
何分も逡巡したあげく、R川さんは震える指でライブカメラの映像にアクセスしました。

場所がわかってから、改めてライブ映像をを見てみると、夜更けにヒトが1人で歩くわけがない不気味な道にしか見えませんでした。
時刻はちょうど12時を回る頃。
いつもであれば、そろそろ女性が現れる時間です。

ところが、その日に限って、いくら待っても女性はライブ映像に姿を現しませんでした。
そんなことは今まで一度もありませんでした。
時計を見ると、すでに12:30を回っています。

(やはり、昨日まで私は何かおかしなモノを見てしまっていたのだろう。このライブを見るのは今日限りにしよう)

そう思ってライブ映像を閉じようとした時、突然、R川さんの部屋の空気がガラリと変わった気がしました。

部屋の気温が何度も下がったように急激に寒くなり、空気は刺すように冷たく張り詰めていました。
そして、ふいに、R川さんは背中に人の気配を感じました。

「・・・ミナイデヨ」

女性の声で、確かに、そう聞こえました。
R川さんは金縛りにあったように動けませんでした。
しかし、振り返らなくても、あのライブ映像の女性だとわかりました。
切れ切れに息を吸うのが精一杯でした。
額から汗が流れポタポタと机に落ちていくのがわかりました。
しばらく背後に女性の気配を感じていましたが、ふいに、スーッとまた空気が変わり金縛りが解けました。
R川さんが、恐る恐る振り返ると、女性の姿はもうありませんでした。

見ていたのはR川さんだけではなく、向こうからも見られていたのだとR川さんは思いました。

その後、その山道のライブ映像は検索しても二度と見つからなかったそうです、、、

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