第124話「新学期の怖い話」

2017/04/07

・・・やってしまった。
新学期初日の大寝坊。
寝癖を直す暇もなく、家を飛び出した。
クラス替えがあるというのに。
なんてバカなんだろう。
しばらくは、初日から遅刻した人と見られてしまう。
そればかりか、これがきっかけで、いじめが始まるかもしれない。
コドモの世界は残酷なのだ。

ようやく学校についた頃には汗だくだった。
汗臭いと嫌がらせが始まったらどうしよう。
どうしても悪い方ばかりに考えてしまう。

昇降口に貼り出された5年生のクラス表で自分の名前を探した。
4組に自分の名前があった。慌てていたので、友達が一緒のクラスか確認できなかった。

全速力で階段を駆け上がり5年生の教室がある4階に向かった。
4組は一番奥。
他のクラスの教室を通りすぎる時、自己紹介する声や、笑い声が聞こえた。

4組のプレートが見えた。私は後ろのドアから音を立てないようにそーっと入った。
瞬間、大勢の視線が一斉に私の方に向いた。
先生だけでなくクラスの全員まで私の方に射るような視線を向けていた。
私はその場で凍りついてしまった。
「すいません」と謝ろうと思ったけど、声が出なかった。
みんなの視線が怖い。見える限り友達は1人もいなかった。
・・・どうしよう。
私が考えていると、急にみんな興味を失ったみたいに前に向き直った。運動会の時のように揃った動きだった。
先生は何事もなかったように、話の続きを始めた。
誰からも一切反応がなく、完全に私の存在は無視された。
いくら何でもあんまりだと思ったけど、遅れた自分が悪いんだと思うしかなかった。
空いている席もなく、私は後ろに立つしかなかった。
遅刻者の相手は一切するなと先生が何か指示をしてるのだろうか。けど、席までないのはひどい気がする。
見たことない女の先生だったし、厳しい人なのかもしれない。新しく赴任してきたのだろうか。

・・・それにしても変なクラスだ。
みんな黙って先生の話を聞いている。
ロボットみたいに表情がなかった。
普通、新学期といえば浮き浮きした気持ちで近くのコと話が弾むものじゃないの?
他のクラスからは楽しそうな声が聞こえてきたのに、4組は死んだように静かだ。
このクラスで私はやっていけるのだろうか。不安が込み上げ、涙が出そうだった。

私1人だけ取り残されているような気持ちだった。
・・・ダメだ。泣きそうだ。こらえようとすればするほど、涙が溢れる。
トイレに行こうと、ドアに向かった。
「どこに行くの?」
冷たい声が聞こえた。
先生が目を見開いて私の方を見つめていた。
それだけじゃない。クラスの全員が首だけ私の方に向けていた。みんな無表情だった。
「・・・お手洗いです」
私は言い捨てて教室を出た。
「待ちなさい」という先生の声が聞こえた気がしたけど、もう限界だった。みんなの前で泣くのはごめんだ。これ以上、恥をかきたくない。

教室を出た瞬間、涙が溢れた。
明日から家に引きこもろう。それしかないような気がした。
「あれ、Mちゃん?」
友達の声に顔をあげた。
廊下にCちゃんが立っていた。
他のクラスは休み時間に入ったらしい。
パラパラと教室から生徒が出てきていた。
慌てて涙を拭う。
「Mちゃんどうしたのかと思ってたんだよ。今年も同じクラスだよ、よかったね」
「・・・え?Cちゃんも4組なの?」
すると、Cちゃんは怪訝な顔をして言った。
「私達二人とも3組だよ。4組は今年からなくなるって」
・・・え?でも私はさっき。
慌てて4組の教室を振り返った。教室のドアの小窓から中を見て、私は言葉を失った。
教室は空っぽだった。先生も生徒も忽然と消えていた。

帰り際、貼り出されたクラス表を確認すると、私の名前はきちんと3組に入っていた。私は何を見間違え、どこへ迷い込んでしまったのだろう。

3組にはもともとクラスメイトだった友達も多くて、私は順調な学校生活を送っている。
だけど、ときおり、休み時間などに廊下で幻の4組で見かけた生徒とすれ違うことがある・・・。振り返ると、もうどこかに消えている。彼らは一体、何者なのだろうか。

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