【怖い話】【心霊】怪談を語る人にご用心 #193

 

・・・気がつくと男性が隣に座っていた。
駅のホームのベンチに酔いざましで座っていた時のことだった。
夏も終わりかけだったけど、虫の鳴き声がうるさかったのを妙にはっきり覚えている。
「今夜も暑いですねぇ」
男性が急に話しかけてきたので、びっくりしてしまった。
男性はスーツを着ていて年齢は50手前くらいに見える。
ふさふさの銀髪に人懐こい笑顔。
警戒心を緩ませるには十分だった。
「そうですね」
私は返事をしてしまった。
今ではそのことをとても後悔している。
「酔いざましですか?」
「えぇ、まあ」
「ひとつ、怖い話でもいかがですか?」
「は?・・・怖い話、ですか?」
「肝も冷えれば酔いも吹っ飛びますよ」
やはり私は酔っていたのだろう。
「いいですね」と答えていた。
「これは、実際にあった話なんですがね・・・」
稲川淳二みたいに雰囲気のある語り口だった。
男性が語ったのは、よくある怪談話だった。
中古で一軒家を購入したある家族の話。
引っ越して数日後、家族の心踊る新生活は悪夢に変わる。
新居で次々起きる怪奇現象。
ポルターガイスト、深夜に現れる悪霊達、豹変する一人娘。
原因を調べた父親は屋根裏から元凶と思われるモノを見つける。
「・・・で、何を見つけたんですか?」
いつの間にか私は男性の話に引き込まれていた。
「わかりません」
「わからない?どうして?」
「そこで話が終わりなんですよ。父親が何を見つけたのか、家族がその後どうなったのかは不明なんです」
「とか言って本当は知っているんじゃないですか?教えてくださいよ」
「本当に知らないんです・・・その中途半端さがかえってリアルだと思いませんか?」
私は息をのんだ。
酔いはすっかりさめていた。
「・・・でも、もしかしたら、あなたならこの怪談の結末を語れるかもしれませんね」
そう言った男性の目が怪しく光った気がした。
「どういう意味ですか?僕なら語れるというのは・・・」
「・・・教えてさしあげたいが、そろそろ時間だ。では失礼・・・」
男性は改札の方へ歩き去っていってしまった。
一人残された僕は途方に暮れた。
さっきまでの暑さが嘘のように汗がひいていた。
不思議なことに虫の音がピタリと止んでいる。
電車がホームに入ってくる。
そろそろ帰ろう。

自宅マンションに着くと、僕は着替えるのも忘れ、眠そうな妻に先程会った奇妙な男性が語った怪談を話して聞かせた。
夫が屋根裏で何かを見つけた下りで妻は僕と同じ突っ込みを入れてきた。
「で、何を見つけたの?」
「それが、変な話なんだけど・・・」
・・・そこで話が終わりなんだよ。
そう言おうとした矢先、奇妙なイメージが頭に浮かんだ。
屋根裏に上がる男。梁の陰に置かれた奇妙な箱。その中身は・・・。
「・・・そう。しゃれこうべを見つけるんだ」
「げ、頭蓋骨てこと?で、娘さんは助かったの?」
「いや、そこで話は終わりなんだ・・・」
「なんでオチがないのよ!」
「この半端さが逆にリアリティーあるだろ」
「ないわよ、誰かの創作でしょ」
「もしかすると君ならその続きを知ることができるかもしれないな・・・」
・・・僕は何を言っているのだろう。
これではまるで男性が僕に語った台詞をなぞるようではないか。
「どういう意味?」
「・・・いや、自分でもよくわからない。疲れてるのかな」
「怖い話なんてするからよ。障りがあったんじゃない?・・・明るい話しよ。これ見て」
妻はチラシを僕に渡した。
中古の一軒家が安く売りに出されたらしい。
「このマンションも古いし、そろそろいいかなって。どう思う?」
絶対買ってはいけない。本能が僕に警告している。
だけど同時に、僕はこの一軒家を買うことになるのだろうという説明しようがない予感がした。
あの時、駅のホームで男性から怪談を聞いてしまった時、すでに僕の人生はなにかが狂ってしまった。そんな気がした。

いきなり怪談を語り始める人にはくれぐれも用心した方がいい。
その後、僕達家族に起きた恐ろしい出来事についてはあまり語りたくない。
でも、どうしても知りたい人がいたら、教えて欲しい。
僕のとっておきの”怪談”をお伝えしにいくとしよう。
ただ、頭の中で呼んでくれればいい。
そうすれば、あなたのもとに僕は現れる。

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