【怖い話】首吊り桜

 

僕の地元には、『首吊り桜』と呼ばれる桜の木がある。
桜が咲くと、人が首を吊る。
地元民だけが知る自殺の名所だった。

他にも桜の木はあるのに、なぜか首吊りが起きるのは必ずその桜の木なので、その桜が人を惑わし首を吊らせているのではと噂されていた。

呪われた桜の噂が広まったのと、町役場の人が桜の木を柵で囲んだおかげで、近づく人が減り、ここ数年は首吊りが起きてなかった。

ところが柵で囲われているのは由緒がある印なのかと勘違いした一部の町外の人達が、見物に訪れるようになった。

そして、SNSによって勘違いは助長された。
去年から急に『首吊り桜』の下で花見をするグループが増えた。
町役場も現金なもので、人が集まるならと、町のホームページで『首吊り桜』の由来を隠して、町の名物として紹介し始めた。
これも、人を惑わす呪われた桜の力なのかもしれない。

今年は、去年以上の見物客が訪れていた。
この勢いだと、来年くらいには観光地になっているかもしれない。
けど、地元の人間は、いつか恐ろしいことが起きるのではないかとハラハラしていた。

僕の家は『首吊り桜』から歩いて5分くらいの場所にある。
先日の晩、近所をランニングしていたら、『首吊り桜』の方から声がした。

何かあったのかと思って、僕はUターンして、『首吊り桜』に行ってみた。
『首吊り桜』が見えてくると、僕は目を疑った。
僕と同年代、高校生くらいの男子が、自転車を台車にして『首吊り桜』の枝にロープをかけて輪に首をかけようとしていた。
僕は考える間もなく自殺を止めるため走っていった。
けど、すぐに足を止めた。
どうも様子がおかしかった。
首吊りをしようとしている男子以外に人影があって、ときおり笑い声が聞こえた。
『首吊り桜』の由来を知っていて、肝試しにきているグループがふざけて首吊りポーズをとっているようだった。
罰当たりな、と憤慨しながら僕は家に帰った。

ところが、翌日の朝、母から衝撃的な話を聞かされた。
「昨日、首吊りが起きたって。同世代の子らしいよ。ここしばらくやんでたのにね」
・・・昨日のグループだ。
間違いない。
けど、なぜ?

昨日の光景がフラッシュバックした。
首吊りのフリをする男子。
それを見て笑っている影。
・・・フリではなかったのだとしたら、あの人影たちは、自殺を黙って見ていたことになる。
あろうことか、おかしそうに囃し立てながら。
そもそも本当に肝試しのグループだったのか。
・・・僕が見た人影はいったい何者だったのか。
想像すると全身に寒気が走った。

『首吊り桜』の事件は、地元の新聞すら一切報じていない・・・。

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