牛久大仏の怖い話

 

牛久大仏は、茨城県牛久市にあるブロンズ製大仏立像で、全高120m、
浄土真宗東本願寺派本山東本願寺によって造られた。
立像としては世界で3番目の高さで、ブロンズ立像としては世界最大級となっている。
大仏の中は見学できるようになっていて、エレベーターで地上85mの展望台まで登れば、天気によってスカイツリーや富士山を眺められる。
観光地としても有名であるが、実は牛久大仏は霊園である牛久浄苑のエリア内に造られていて、大仏内には何千体もの胎内仏が祀られている。

これは、そんな牛久大仏で私が体験した怖い話です。

私には、妻と二人の娘がいますが、
娘二人は独り立ちし、今は妻と二人暮らしです。
最近は、たまに妻と遠出するのが唯一の楽しみで、牛久大仏に立ち寄ったのはほんの偶然でした。
福島の温泉地を目指して車を走らせていると、突如現れた大きな大仏に私の目は奪われました。
妻に、寄ってみようといい、牛久大仏に立ち寄ることにしました。

拝観料を支払い、整備された庭園を進みました。
色とりどりの花が咲き誇り、池にはカモが泳いでいました。
足元まで来ると、大仏は驚くべき大きさでした。
見上げる首は痛くなり、空まで届くのではないかという迫力でした。
大仏の中に入り、エレベーターで85m上の展望スペースに向かいました。
大仏の構造上、小窓から景色を眺めるような形でしたが、大仏様の中から遠く東京のビル群を一望できる眺望は格別でした。

一通り回って、エレベーターを降りると、金色の仏像が何千と並ぶ円形の空間に出ました。
蓮華蔵世界と呼ばれ、奉安された仏さまの像が並ぶ場所とのことでした。
壁一面に金色の像がずらりと並ぶ光景は荘厳で、言葉が出てきませんでした。
円形の廊下をグルリと歩いていると、ふと、視界の隅で何かが動いたような気がしました。
金の仏像の一体が、ひとりでに動いたような気がしたのです。
何かの見間違いに違いないだろうと思って、近づいて見てみると、
その一体だけ、微かに仏像の身体の向きが傾いでいました。
触って直すわけにもいかず、私はその場を後にしました。
けど、歩いていると、背後の方から視線を感じるような気がしました。
振り返っても誰もいません。
なんだか少し気味が悪い感じがしました。

牛久大仏の出口の前で、妻がお手洗いにいくというので、
私も男子トイレに向かいました。
個室に入って、人心地つくと、何か音が聞こえます。

ズリズリズリ・・ズリズリズリ・・

何か固い物で地面を擦るような音です。
トイレで聞く類の音としては珍しく、なんだろうと思って、
用を済ませて、個室を出ました。

特に変わったものはありませんでした。
変なこともあるものだと手を洗ってから、鏡を確認して、
私は思わず「あっ」と声を上げました。
鏡の中に、こちらをうかがう金の仏像の姿が写っていたのです。
さきほど壁一面に並んでいた金の仏像の一体でした。

ズリズリズリ・・・

金の仏像がひとりでに動いて私の方に近づいてきました。
見間違えではありませんでした。
私は水を止めるのも忘れて、トイレを飛び出しました。
慌てて出てきた私を妻がキョトンとした顔で迎えました。
私は妻の手を取り急いで大仏を後にしました。

 

以来、私は怖い実体験として、牛久大仏での出来事を酒のつまみに知人に語り聞かせるようになりました。
すると、ある時のこと。
知人から、「そういえば」と牛久大仏に奉安した人の話を耳にしました。
その亡くなった人の名前を聞いて、私は驚きました。
小学生の時、引っ越しっていった地元の幼馴染と同姓同名だったのです。
調べてみると、やはり私の幼馴染でした。
幼馴染の家族と連絡を取り、奉安された仏像の場所を教えてもらい訪ねてみると、なんとなく予感はしていましたが、まさにあの時、傾いでいた金の仏像でした。

幼馴染が私に気がついて、仏像を動かしてサインを出してくれていたのかもしれない。
怖い思いはしましたが、不思議な縁を感じないわけにはいきませんでした。
それ以来、私は、毎年欠かさず牛久大仏を訪れ、幼馴染のお参りにいくようにしております。

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