3年ぶりにできた彼女はまさに理想的な人だった。
料理がうまくて優しくて、顔も僕の好みのタイプ。
何より彼女は面倒見がよく、いかんせん僕が抜けている人間なので、
忘れ物を教えてくれたり勘違いを正してくれたり、
こうした方がいいとアドバイスをくれる姉御肌なところがあって、
歳は同じなのに心強い存在だった。
付き合いはじめから、この子と結婚するのかもな、と漠然と感じるものがあった。
付き合って3ヶ月くらいして、はやくも僕たちは半同棲状態になった。
僕の職場が、彼女のマンションに近いこともあって、僕は彼女の部屋で寝起きするようになった。
彼女は、甲斐甲斐しく僕の面倒を見てくれた。
付き合って6ヶ月。
僕は仕事に疲れていて、転職を考えだしていた。
とにかく忙しくてろくに彼女と過ごす時間も作れないのが嫌だった。
彼女に相談すると、ゆっくり転職活動すればいいよとアドバイスしてくれた。
離職期間中は彼女の部屋に住めばいいとも言ってくれた。
僕は彼女の愛情に感謝し今の職場をやめた。
転職活動をしている間、
少しでも彼女の負担を減らそうと料理洗濯掃除など生活に関わることは全部僕が引き受けた。
仕事に集中できて彼女も喜んでいるようだった。
彼女の部屋で住み始めてから1ヶ月。
転職は思ったようにうまくいかなかった。
面接までは行くのだけど内定がもらえない。
そういうこともあると彼女は慰めてくれたけど、
いつまでも彼女の好意に甘えているわけにはいかない。
僕は焦っていた。
ところが、2ヶ月、3ヶ月が経っても次の職場が決まらなかった。
一度など内定までもらいながら、入社直前でひっくり返された。
僕の一体なにが悪いのか。
苛立ちが募るばかりだった。
反面、彼女との関係はすこぶる良好だった。
イライラしている僕に、彼女は、焦って就職する必要はないと優しく諭してくれた。
そんなある日。
最終面接でまた一社見送りとなったというメールが届いた。
面接の時は、会話が弾み、明日にでも来て欲しいという感じだったのに、一体なぜ・・・。
登録している転職サイトも、僕を見限ったのか、あまり新しい求人を紹介してくれなくなってきていた。
僕の我慢も限界だった。
転職サイトの担当者に、なぜこんなに落ちるのかと率直に尋ねてみた。
すると、担当の人は、開き直った様子でこう告げた。
「思い当たるフシはありませんか?」
「なにもないですよ!」
「・・・匿名の電話があるらしいんですよ」
「電話?」
意味がわからなかった。
「実は何度も内定決まってたんです。けど、土壇場で、匿名の電話が企業さんに入って、◯◯さんが以前の会社を経費の不正利用で解雇されたと情報提供があるらしいんですよ」
「何の話ですか!?僕はそんなことしてませんよ」
「誰かの恨みを買った覚えはありませんか?・・・正直、我々にお手伝いできることはないかもしれません」
そう言って、冷たく電話は切られた。
僕はしばらく電話を握りしめたまま呆然とした。
まさに晴天の霹靂だった。
誰かが僕の転職を妨害している。
そんなことができる人間は一人しか心当たりがいなかった。
僕がどの会社を受けているかを知っているのは周辺で一人しかいないからだ。
「ただいま」
彼女は、いつも通り明るい声で帰ってきた。
屈託ない表情。
誰もが裏表などなさそうなさっぱりした人だと勘違いするだろう。
「どういうつもり?」
「どうしたの、怖い顔して」
「僕が面接している企業に電話して、でまかせ吹き込んでるよね。ずっと僕の転職を邪魔してたんだろ。どういうつもり?」
彼女は一瞬、面食らった表情をしたけど、すぐにいつもの彼女に戻った。
「ああ、そのこと?◯◯くんのためだよ。焦って良くない三流企業に就職するより、腰をすえて◯◯くんが才能発揮できる会社を見つけて欲しいと思ったの」
彼女は何も悪びれもしなかった。
けど、彼女は嘘をついている。
僕なりに考えて彼女の動機はわかっていた。
「だからって、普通、就職の妨害なんてしないよね?非常識だと思わない?僕はお金の使い込みなんてしてない!・・・それに、君がこんなことした本当の理由はわかってるよ。僕のためなんかじゃない。僕を主夫みたいに家に縛りつけておけば君が仕事に集中できて便利だからだろ」
図星をつかれた彼女は開き直った。
「その方が、○○くんにとってもいいでしょう?」
あろうことか彼女は笑っていた。
「頭おかしいよ。ついていけない」
「でも、出ていける?お金はあるの?」
彼女の言う通りだった。
彼女に頼りきっていた僕は2人の生活費で自分の貯金を使い果たしていたし、お金の管理は彼女に任せきりだった。
「これでいいの。○○くんは、今まで通りしてればいいの。私が面倒みてあげるから」
蜘蛛の糸に絡め取られてしまったような気持ちだった。
僕は、ただ、彼女に自分の養分を食べ尽くされるのを待つだけの身。
家をほとんど出ることもなく、彼女に命令されるがまま、日々を送る毎日は今も続いている・・・。
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