駐輪場の怖い話
私が住むマンションは、屋内に駐輪場がある。
エレベーター脇から、自動ドアを隔てて長い一本の廊下が伸びていて、壁側にずらっと自転車が並んでいる。
数えたことはないけど、100台くらいはありそうだ。
駐輪場は、マンションの裏口にあたるので、よく通り道としても使っていた。
ある日、ふと深夜に喉が乾いてコンビニに行くことにした。
一番近くのコンビニにいくには駐輪場を抜けるのが早い。
エレベーターを降りて駐輪場に入っていった。
駐輪場は真っ暗で、自動で照明が灯るようになっている。
ジワッと蛍光灯が点灯して、明るくなったのを確認し、整然と並んだ自転車の横を進んでいく。
チリン・・・。
ふと、音が聞こえた気がした。
自転車の呼び鈴を鳴らす音だ。
音が鳴った方を振り返ってみたけど、どの自転車の呼び鈴が鳴ったのかは、わからなかった。
けど、たしかに音はした気がする。
駐輪場には誰もいないのに・・・。
聞き間違いかな、そう思って、再び歩き始めると、
チリン・・・。
またも、呼び鈴の音が背後からした。
しかもさっきより近かった気がする。
気のせい、気のせい。
そう自分に言い聞かせ、早足で出口へと急いだ。
オートロックの扉まであと30メートルほど。
一息でいってしまおうと急いだ。
その時だった。
チリンチリンチリンチリンチリン・・・。
一斉にいくつもの自転車の呼び鈴が鳴り始めた。
気のせいなんかじゃない。
振り返ると、誰もいないはずなのに、何台もの自転車の呼び鈴がひとりでに動いていた。
私は、慌てて扉を抜けて外に出た。
今のはなんだったのか。
頭が追いつかず、背筋に寒気が走った。
逃げるようにコンビニに入り、飲み物を買って、マンションに戻った。
とてもじゃないけど、駐輪場を通る気にはなれなくて、表の入り口に回った。
エントランスホールを抜けて、エレベーターの到着を待った。
視界右手には駐輪場に通じる自動ドアがあったが、なるべくそっちを見ないようにした。
チリン・・・。
自動ドアの奥から、微かに自転車の呼び鈴の音がした気がした。
こんな時に限って、エレベーターの到着が遅く、私はボタンを連打した。
いきなり駐輪場に通じる自動ドアが開いて、
私は飛び上がりそうなほど驚いた。
半袖短パンの男の人。
マンションの住人だった。
驚いた顔で見つめる私を、男の人は怪訝そうに見つめ返してきた。
人がいる。それだけでずいぶん安心感が違った。
男の人の背後で、自動ドアがしまっていくのが見えた。
・・・その時、私は見てしまった。
閉まる自動ドアの背後、駐輪場に停めてある自転車に何人もの子供が乗っているのを。
子供達は全員、自転車にまたがって、真顔で私の方を見つめていた。
駐輪場に続く自動ドアが閉まると同時に、エレベーターが到着した。
いつまでもエレベーターに乗ってこないで立ち尽くす私を、男の人が不審そうに見つめていた。
このマンションで昔何があったとか、建つ前に何かあったというような噂は一つも聞いたことがない。
それ以来、一度も怖い体験はしていないが、駐輪場を通ることはなくなったのはいうまでもない・・・。
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