【怖い話】あなたのおうちはどこですか?

これは、会社の飲み会の帰りに起きた出来事です。

自宅の最寄り駅についたのは、ちょうど日付が変わる頃でした。
田舎の駅なので、ほとんどひとけのない駅舎の通路を歩いていると、壁際に女性が立っているのが見えました。
家族の迎えか何かだろうかと思って、女性の前を通り過ぎようとした時です。
「あなたのおうちはどこですか?」
唐突に女性に声をかけられ、びっくりしました。
耳を疑って振り返ると、女性がこちらを向いていました。
よく見ると、長い髪に顔が隠れていてなんとなく気味が悪い女性でした。
通路は照明で明るいのに、なぜかその女性の周りだけ陰っていて暗い感じがしました。
関わったらいけない。
心の警告に従い、私は女性の言葉を無視して、駅を出ました。
自宅までは、閑静な住宅地を歩いて15分ほどです。
この時間になると、ほとんど人と会うことはありません。
ところどころに街灯はあるものの、ときおり犬の遠吠えが聞こえるくらいしか音もなく、自分の足音だけが妙に響いて聞こえます。
何度か角を曲がった時のことでした。
前方の街灯の下に人のシルエットがありました。
女性のようでした。
こんな遅い時間に何をしてるんだろう。
さっきのこともあるので、あまり近寄らないようにして、足早に通り過ぎようとすると、
「あなたのおうちはどこですか?」
とシルエットの方から声が聞こえました。
ゾワッと全身の毛が逆立つような寒気を覚えました。
駅で会ったさっきの女でした。
どうやって先回りしたのかわかりませんが、確かに同じ声でした。
私は振り返ることができず、走り出しました。
家まであと5分くらいの距離です。
しばらく走ると、だんだんと息が切れてきて、私は立ち止まりました。
振り返ると、女の姿は見えませんでした。
暗い路地が続いているだけです。
・・・よかった。
そう思って、下を向き、ホッと息をついた時でした。
「あなたのおうちはどこですか?」
頭の上あたりから声が聞こえて、私は凍りつきました。
目を開くと、目の前に女の足が見えました。
またさっきの女だ。
恐怖で足が震えました。
なんなんだ、この女・・・。
おかしい、おかしい、おかしい。
パニックになりかけていました。
「あなたのおうちはどこですか?」
女の声は、脳を直接、揺らすように頭に響きました。
これ以上、この声を聞いていたらおかしくなりそうでした。
それに、このまま家に向かったら、この女は家族が待つ家にまでついてくるのではないか。
恐怖とパニックから、誰が住んでるか知りもしないご近所の一軒家を指差して、私は咄嗟に言いました。
「ここだよ!この家!」
すると、女はその家の方に視線を向け、ニィッと笑いました。
女の注意が私から逸れた隙に、女の脇を抜け、逃げました。
途中、何度か振り返りましたが、女は私が指差した家をじっと見続けていて、私からは興味が薄れたようでした。
自宅に駆け込み玄関の中に逃げ込んだ後も、しばらく心臓の高鳴りが収まりませんでした。
女がつけてきているんじゃないかと気が気でなく、何度も窓から表の様子を確かめましたが、女の姿を目撃することはありませんでした。

あの女は一体なんだったのだろう。
気味の悪いモヤモヤは残りましたが、その後、女の影を感じることもなく、日常が戻ってきました。
ところが、それから数週間経った日曜のことです。
子供と近所を散歩していると、引っ越しのトラックが見えました。
トラックが停まっていた家は、先日、私が女に「ここだよ!」と指を差した家でした。
「あなたのおうちはどこですか?」
女の声を思い出し、ブルッと身体が震えました。
単なる偶然だろうと思うのですが、この家であの後、何かがあったのではないか、そんな気がどうしてもしてしまいました。
ちょうど、家人と思しき老夫婦が家から出てきました。
2人とも陰鬱な表情で俯き、疲れ切っていて、とてもじゃありませんが幸せな引っ越しには見えませんでした。
やはり何かあったのではないか。
そう思った時、老夫婦の背後の家の中から、あの女が夫婦の背中を覗いているのが見えました。
私は叫びそうになるのを必死でこらえ、子供の手を引いてその場を逃げ出しました。

その後、老夫婦がどうなったかは知りませんが、申し訳ないことをした気持ちで今もいっぱいです。
それにしても、あの女は何者だったのでしょうか、、、

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