【怖い話】ボクの名前知ってる?

「ボクの名前知ってる?」
いきなり男の子にそう話しかけられA子さんは固まってしまった。
高校の通学途中、駅のホームでの出来事。
話しかけてきたのは、5歳くらいの男の子だった。

「・・・ううん。知らない」
そうA子さんが答えると、男の子はパタパタと走って、どこかへ行ってしまった。

男の子を見たのは、その一度きりではなかった。
数週間に一度、多い時は2日おきに、駅のホームで見かけた。
その度、男の子は、「ボクの名前知ってる?」とA子さんに話しかけてくる。
毎回、「知らないよ」と答えると、男の子はどこかへ走っていく。
その繰り返し。
奇妙ではあったが、男の子から悪いモノは感じなかった。

高校2年の時、A子さんにショッキングな出来事があった。
妊娠が発覚したのだ。
つきあっていた彼氏は責任を取りたくないと逃げ出し、両家庭での話し合いの上、中絶することが決まった。
A子さんは最後まで産みたいと言ったが、両親が許してくれなかった。

しばらく学校にも通えなくなって、鬱々と過ごした。
ようやく少し元気を取り戻し、久しぶりに登校した日のこと。
駅のホームで、「ボクの名前知ってる?」と男の子が声をかけてきた。
A子さんは、ハッとした。
この子は、もしかしたら、自分が産むはずだった男の子なのだろうか・・・。
なんて罪深いことをしてしまったんだろう・・・。
A子さんは涙を流し、男の子に向き合い、もしも産んでいたら子供につけたかった名前を呼びかけた。

「あなたの名前はXXXよ」

次の瞬間、男の子は、驚いたように目を見開いた。
そして、点となった黒目が、A子さんの見る前で、どんどんと小さくなって、ついには白目だけになった。
「・・・ちがうよ!」
男の子は、眉間に皺を寄せ、怒りに顔を歪め、トン!とA子さんの身体を押した。
何が起こったのかわからなかった。
線路に落ちたのだと理解した時には、列車がA子さんに向かって猛スピードで走ってくるのが見えた。

幸いなことに、非常停止ボタンが押され、A子さんは一命を取りとめた。
結局、あの男の子は、A子さんとは何ら関係ない男の子だったのかもしれない。
A子さんの罪悪感が呼び寄せてしまった霊だったのだろうか。
真相はいまだにわからない。
その後、A子さんが、駅のホームで男の子を見かけることはなかったという。

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