第113話「だるまさんが転んだ」

2018/01/30

「だるまさんが転んだ」
お約束の掛け声とともに僕は振り返った。
夕暮れ前の神社の境内は、一面朱色に染まっていた。
学校帰り、小学校のクラスメイト6人で、おいかけっこやかくれんぼをして、最後に「だるまさんが転んだ」をして帰ろうという話になった。

「だるまさんが転んだ!」
さっきよりテンポよく振り返った。
ピタッと動きを止めた影が6つ。逆光のせいで距離が離れていると顔が見えない。シルエットから推測して、当てるしかない。鬼の僕に限りなく不利な勝負だった。
僕は、目隠しに使っている大木に向き直った。
・・・さっきほんの一瞬、違和感を覚えた気がしたけど、なんだったろうか。
「だるまさんが・・・」
次のターンを始める。
その時、電流が身体を走ったように、違和感の正体がわかった。

・・・1人多い。
さっき振り返った時、影は6つあった。
僕を入れて全員で6人のはずなのに。
いつの間にか1人多くなっている。
・・・きっと通りかかった同級生が合流しただけに違いない。そう自分に言い聞かせたけど、気色の悪さは喉元に引っ掛かった。

「・・・転んだ!」
僕は振り返った。

ピタッと影の動きが止まった。
影はやはり6つ。1人増えている。
6つの影はさっきよりずいぶん僕に近づいてきている。
夕暮れが近づき、もはや誰が誰だかわからない。
6つの影に追い詰められているような気がしてきた。怖くて逃げ出したかった。「降参」と言って終わりにしたいのに、絡めとられたように僕の身体は言うことを聞かなかった。

「だるまさんが転んだ!」

ひとつだけ影がグンと近づいてきていた。シルエットからでは誰だかわからない。
あと、二回くらいでたどり着かれてしまいそうだ。
・・・影の主は、果たして僕の知る同級生なのだろうか。
いつの間にか、全身、汗びっしょりだった。

「だるまさんが・・・転んだ!」
振り返った瞬間、目の前が真っ暗だった。
さっきまで遠くにいたはずの6つの影が僕を取り囲んでいたのだ。
目の前に立っているのに影の顔ははっきり見えなかった。
ただ、みんな笑っているのはわかった・・・。
そして、1人も僕の同級生はいなかった・・・。

気がつくと、僕は神社の雑木林で倒れていた。
気を失って倒れていたらしい。遠くから僕を呼ぶ同級生の声が聞こえた。
・・・助かった。
そう思った瞬間、涙が溢れていた。

後から聞いた話では、僕はかくれんぼの途中から行方がわからなくなっていたらしい。
・・・逢魔ヶ時。
夕暮れ時には、この世とあの世が交わる時間があるのだという。
それ以来、僕は、夕暮れを待たずに家に帰るようになった・・・。

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