【怖い話】リモートワークの発見

コロナ禍により、今年の春から私の会社は、リモートワークとなった。

はじめは出社せずに自宅で仕事ができるのがとても嬉しかったが、慣れてくると一人暮らしの寂しさが身に染みるようになった。運動不足もたたり、体重も5kg増えてしまった。

ある日のこと。
少しでも外の空気を吸おうと、ベランダに出て外を眺めていると、マンションの向かいにある公園に目が留まった。
公園のベンチに、スーツを着た男性が座っている。
年齢は40代くらいだろうか。
スマホを熱心に操作していた。
その人を見て、あれ?っと思った。
この前も、同じような時間帯に同じ人を見かけた気がしたのだ。
それだけだったら、さしてなんでもないことだったのだが、、、

その翌日も昼過ぎにベランダで風に当たっていたら、また同じ男性が公園のベンチに座っているのが見えた。
気になってしまい、その翌日も、そのまた翌日も同じ時間帯に外を見てみたら、同じ男性がやはりいる。
いつも同じ時間帯に公園のベンチに座る男性。
毎日、公園で長い時間を過ごしている男性がいるなどということは、コロナでリモートワークになっていなければ気づかなかっただろう。
それにしてもなぜ毎日あのベンチに座っているのだろう。
営業の途中で休んでいるのか、家で仕事をしたくなくて公園に来ているのか。
夕方頃に見てみてもいつもまだ姿があるので、休憩にしては妙に長い。
下世話だとわかっているが、男性が公園でなにをしているのか気になってしまってしょうがなかった。
公園に足を運んでみて、男性の近くをフラフラしてみたりしたけど、理由はなにもわからなかった。
男性はずっとスマホをいじっている。
アプリゲームでもやっているのだろうか。
謎は深まるばかりだった。

リモートワークも1ヶ月くらいすると、家で仕事をするのが辛くなってきた。
たまには外に出ようと思って、カフェで仕事をしてみることにした。
お昼過ぎまで外で作業をして、自宅に帰ってくると、公園に男性の姿がなかった。
私が知る限り、この1ヶ月ではじめてのことだった。
ようやく破られた法則性に好奇心をくすぐられた。
男性の素性を妄想しながら、マンションのエレベーターに乗って部屋に帰った。
ところが、玄関に入った瞬間、部屋の様子に違和感を覚えた。
何がどうおかしいと言葉では説明はできないのだけど、いつもと違う居心地の悪さを感じた。
なんだかむずむずとして、私は一部屋ずつ確認していった。
あらかた確認し終わったけど、なにも変わったことはなかった。
気のせいか、、、そう思った時、上が妙に気になって見上げた。
天井に点検用のパネルがあって、それが少しズレて隙間ができていた。
その隙間から、人の目がこちらを覗いていた。
私は叫び声をあげそうになるのをこらえて、一目散に部屋を飛び出して、警察に通報した。

駆けつけた警察により天井裏から引きずり出された侵入者を見て、私は驚いた。
公園のベンチに座っていた男性だった。

後日、警察から説明を受けたところによると、男性は元鍵屋で、色々な家のドアの鍵を複製しては、不在の時に勝手に侵入するということを繰り返していたらしい。
今の根城にしているのが、私の部屋だったらしく、天井裏からは食べかけの食料が大量に発見されたという。
それらはすべて私の部屋の冷蔵庫から少量持ち出したものや、忘れて棚の奥にしまいこんでいたものだった。
男性は私が不在の日中は堂々と私の部屋でくつろぎ、私が帰る前に天井裏に隠れるという生活を送っていたらしい。
ところが、私がリモートワークになり日中も家にいるようになったので、隙をみて天井裏から脱出したものの、戻れずに、公園で待機するしかなかったらしい。
他の家に移らなかったのは、天井裏に所持品を置きっぱなしにしていたからだそうだ。
私が不在になるのを待って、天井裏から所持品を持ち出すつもりだったが、私が思いの他早く戻ってきたので、鉢合わせしたのだった。
見ていたのは私だけではなかった。
公園の男性もまた私の動向をずっと観察していたのだ。
もしリモートワークになっていなかったら、男性はまだ天井裏に潜んでいたのかもしれないと思うと、ゾッと背筋に寒気が走った。

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