ホテルニュー鳴門の怖い話

 

徳島県徳島市にある「ホテルニュー鳴門」は、渦潮で有名な鳴門海峡のほど近くを走る鳴門スカイライン上に建っている廃ホテルで、四国でも有名な心霊スポットとなっている。
「自殺した女の幽霊がでる」「写真を撮ると必ず心霊写真が撮れる」「自殺した経営者の幽霊が出る」など怪異が多く語られている。
建物は断崖絶壁に沿って建てられていて、入口が5階部分にあたるという特殊な構造をしている。
入口から地下に降りていくようにホテルが建っているのだ。
昼は瀬戸内海が一望できる絶景だが夜になると辺り一面が暗闇となる。
長年風雨にさらされ骨組みしか残っていない部分もあり、一歩間違えれば転落の恐れがある危険なスポットでもある。

これは、そんなホテルニュー鳴門でAさんが体験した怖い話。

ある夏、Aさんは、地元の仲間4人と車でホテルニュー鳴門跡地に肝試しにいった。
夏休みの軽いノリだった。
到着したのは午前1時。
車はほとんど走っていない。
懐中電灯片手に荒れ果てた廃ホテルの探索をはじめた。
5人もいるのであまり怖さはなかった。
入口が5階部分にあたるので階段を降りていく格好になるのだけど、その階段が半ば崩れかけていて足場が悪い。
転んで落ちているガラスで怪我をしないかと、心霊というよりそちらの方がAさんはヒヤヒヤした。
怪異が起きる場所として特に有名なのは、1階にある大浴場付近だという。
なので、5人は、ダンジョン攻略のように階段を見つけては降りていった。
2階までたどりついて、1階に続く階段の名残りらしきものを見つけたけど、崩れ落ちてしまっていて、足場がかなり悪く、2階に立つ人の補助がなければ降りられそうになかった。
そこで、Aさんたちは、2階で待機するチームと1階を探索にいくチームに分かれることにした。
グーパーでチーム決めをして、Aさんはもう1人と上に残ることになった。
怖い噂がある場所に行かなくていいことにホッとしたものの、3人が降りて行ってしまうと、待つだけでも不安になってくる。
廃墟だからか、どこかしらで頻繁に家鳴りのようなラップ音のようなきしんだ音があがる。
その度に一緒に待っていた友人とビクッとなる。
15分ほどしても1階に行った3人は戻ってこなかった。

ぎゃーーー

その時、今まで聞いたことがないような声の悲鳴が聞こえた。
3人に何かあったのか。
Aさんともう1人の友人は必死で下の階に呼びかけた。
まもなく、3人が戻ってきた。
「なにがあったんだ!」と尋ねる上の2人に対し、下の階の3人は「早くあげてくれ!早くあげてくれ!」とまくしたてるだけで、パニック状態だった。
Aさん達は手を貸して下の3人を引き上げたのだけど、全員を引き上げた瞬間、Aさんは1階の暗闇に人影を見た気がした。
ところが懐中電灯で照らしてみても誰もいなかった。
5人は、蜘蛛の子を散らすように入口に停めた車まで戻った。
車の中に戻っても、1階に行った3人はまだ興奮状態で瞳孔が開いていた。
「なにがあったんだ」
あらためてAさんが尋ねると、3人は顔を見合わせてから一斉に答えた。
「女がいたんだよ、大浴場に!」
大浴場に足を踏み入れた瞬間、強烈な冷気を3人は感じた。
他の部屋とはまるで違う異質な空気がそこだけ流れていた。
入口から懐中電灯で大浴場内を照らしていると、浴場の奥に背中を向けて立つ女の後ろ姿を捉え、慌てて逃げ帰ってきたのだった。
3人のうちの1人が写真を撮ったというので、みんなで確認してみることにした。
ところが、写真には女の姿は映っていなかった。
3人にかつがれているのではないか。
上で待機していたAさんともう1人はそう思った。
しかし、その時だった。
ホテルの建物跡に向けられていた車のヘッドライトに人影が浮かんだ。
赤い服を着た女だった・・・。
Aさんは唖然として反応ができなかった。
女はうつむいて長い髪を垂らしていて、顔は見えなかった。
5人は女から視線を外せなかった。
すると、突然、女が車に向かって、走り出してきた。
「うわぁぁ」
「はやく車出せ!はやく!」
女が車の目の前に迫った瞬間、5人の車は間一髪で逃げ出した。
帰り道で事故にあわなかったのが不思議なくらい全員がパニックに陥っていた。
朝日がのぼってきた頃、自動販売機の横で車を左に寄せてとまった。
タバコを吸って落ち着きをとりもどす。
と、その時、1人が何かに気がついた。
車のタイヤに大量の長い髪の毛が絡まっていたのだ・・・。

後日、5人はお金を出し合って霊能者のもとを訪れ除霊してもらうことにした。
「くるのが遅かったら、5人に不幸があったかもしれない」
霊能者は、そう語ったという。

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