第114話「座敷わらし」

2017/09/11

・・・おぉ、ぼん。遊びにきたんか。そんなところに立ってないで、こっちにおいで。ばあちゃん、この頃、めっきり目が悪くなってしまってね。もっと近くに来ておくれ。
・・そう、おいでおいで。・・え?また、話を聞かせて欲しいんか?そうかい、そうかい。
じゃあ、今日は座敷わらしさんのお話でもしようかね・・・。
ぼんは、わらしさん知っとるかい?
・・・そうそう。わらしさんが住む家には、お金が入ってくるんだよ。よく、知ってるね。
・・・けど、わらしさんは、優しいだけじゃないんだ。ばあちゃんは、実際に見たからよーく知ってる。
・・・山の上に庄屋さんの屋敷があるじゃろ?今は廃れて誰も住んでないけれど、昔はそれは裕福で栄えていてね。ばあちゃんは若い頃あの屋敷でお手伝いをしてたことがあるんだよ。
庄屋屋敷の旦那さんは、朝からお酒を飲んでは一日中、遊んでばかりいるような怠け者で、村のみんなは不思議がってた。なんで、あんな人が財産を持っているんだろうって?
だから、何か秘密があるはずだろうから調べてくれないかってばあちゃんに頼んでくる人までいたんだ。当時の村長もその1人だったね。村で一番偉い村長さんまで、年端もいかないばあちゃんに頭を下げてきたんだから、驚いたねぇ。
・・・お手伝い仲間の間で噂はあった。庄屋さんは、座敷わらしを捕まえて閉じこめているんじゃないかってね。わらしさんは気まぐれだから、同じ場所にとどまったりしないんだ。そして、わらしさんが去った家は、急にお金が入らなくなって廃れていくといわれてた。ずっと、裕福でいたければ、わらしさんを家に閉じ込めるしかないんだ。
・・・噂が立ったのには理由があった。庄屋さんの屋敷には一ヵ所だけ、決して入ってはいけないお座敷があったんだよ。見たこともない太さの注連縄が座敷の戸にかけられていて、戸にはお札がびっしり貼ってあった。
みんなその座敷に座敷わらしさんが閉じ込められてると思っとった。
・・・座敷の中から子供の笑い声を聞いたというお手伝い仲間もおったね。
・・・恐ろしい事件が起きたのは冬がもうすぐ始まろうという時じゃった。
その日、ばあさんは朝からきのこ取りに山へいっとった。昼も近くなって屋敷に帰ろうと山を下っとったら、突然、屋敷の方から叫び声が聞こえたんじゃ。
屋敷に戻った時の光景は忘れられんねえ。あれから何十年も経つけど、昨日のことのように、覚えてる。
・・・一面、血の海さ。玄関の土間の壁には墨汁をぶちまけたみたいに血が飛び散っとった。廊下には人を引きずったみたいに血の跡がずーっと続いとった。何も考えられんかった。ばあさんは、ただ、ぼおっと血の跡をたどっていった。血の跡は、例の開かずの座敷まで繋がっとった。
・・・座敷の戸はあいとったよ。そして、血の跡は座敷の中まで続いとった。
ばあさんは、そこで、地獄を見た。座敷の中で、人が折り重なって山ができとった。旦那さんも奥さんもお手伝い仲間もみんないた。
みんな殺されとった・・・。
畳には、血のついたナタが落ちとった。
その時、ばあさんは聞いたんだ。子供のささやくような笑い声を。
わらしさんだ。わらしさんが怒ってみんなを殺してしまったに違いない。
ばあさんは畳に頭をこすりつけて「ごめんなさい!ごめんなさい!」と謝った。
すると、誰かが前に立った気配がした。
あの時は、もう死ぬんだと思ったねぇ。
ただ泣いて謝り続けることしかできなかった。
けど、しばらく何も起きなかった・・・。
それから、すーっと人の気配はなくなった。
・・・村では、流れ者の仕業ってことになっとるが、アレはわらしさんがやったに違いねえ。ばあさんは今でもそう思ってる。
・・・ふぅ。少し話疲れたなぁ。ばあさんは、ちと寝ようかね。
おや、ぼん。どうしたん?何を手に持っとるん?危ないよぅ。包丁なんて持って・・・。
・・・・・・。
ぼん、じゃないね。わらしさんかい?・・・どうやって座敷を出たね?ワシはちゃんと閉じとったつもりじゃったけど。
悪かったねぇ。こんな年寄りの命でよければ持っていってくんさい。
お嫁に来た家でわらしさんを見かけた時は、本当に驚いたよ。あんたを怒らせるのは恐ろしかったけど、貧乏暮らしの方がよっぽどきつい。
あんたのおかげで、今じゃワシら一家は村一番の長者になった。後悔はしてねえ。
申し訳なかったねぇ・・・。

-怖い話, 民間伝承
-