【怖い話】クリスマスの子供

これはクリスマスにCさん夫婦に起きた怖いお話。

Cさん夫婦は、ともに30代で、職場結婚だった。
結婚5年目のある年の12月。
Cさんの奥さんは、自宅の庭に一人の子供が迷い込んでいるのを発見した。
小学校低学年くらいに見えたそうだ。
近所の子供かなと思って、「お名前は?」と聞いても首を振るだけで、ちょっとシャイな感じの子だった。
子供好きのCさんの奥さんは、その男の子にお菓子を振る舞った。
男の子は喜んでお菓子をパクパク食べていたそうだ。
その日から男の子はCさんの家の庭に顔を出すようになった。
あまりに頻繁に来るものだから、Cさんも顔を合わせることが何度かあった。
男の子は、楽しそうにCさんの家で遊んで、夕方になると帰っていく。
子供がいないCさん夫婦にしてみれば子供と触れ合ういい機会であったが、
男の子が毎日のように来るものだから、少し心配になってきた。
ある時、Cさんの奥さんは、「お母さんは心配しないの?」と聞いてみた。
すると、男の子は、「お母さんいない」と答えた。
「お父さんは?」と聞くと、「お父さんもいない」という。
家庭に恵まれていない子だと知り、Cさん夫妻はいっそう男の子をかわいがるようになった。
そして、クリスマスがやってきた。
Cさん夫妻は、男の子のために流行りのおもちゃを買って用意しておいた。
サンタさんからだよ、と言って渡すと、男の子は飛び跳ねて喜んだ。
しかし、不思議なことに、次の日から男の子はふっつりとCさんの家に来なくなった。
「もしかしたら、あの子、私たちへのクリスマスプレゼントだったのかもしれないね」
奥さんはCさんにしみじみと言った。
実は、Cさん夫妻は、二人とも子供ができづらいカラダであることが病院の検査でわかっていたのだ。
自分たちの子供が持てない代わりに、サンタさんがクリスマスプレゼントで子供を持つ夢を見させてくれたのではないか、2人はそんな風に考えた。

年が明けても、男の子は全く姿をあらわさなかった。
季節は巡り、あっという間に、翌年の12月がやってきた。
ある日、Cさんが家に帰ると、奥さんが大きな白い袋を用意していた。
人が1人入りそうなくらい大きい。
「この袋、どうするの?」と聞くと、プレゼントをたくさん買って入れておくのだと奥さんは答えた。
「もしかしたら、またあの子が来てくれるかもしれないから・・・」
Cさんは、内心、少しやりすぎではないかと思ったけど、奥さんの気持ちはわからないではなかった。
それくらい、去年の男の子と過ごした短い期間は、2人にとって良い思い出となっていたのだ。

けど、男の子は全く姿をあらわしてくれなかった。
現実的に考えれば、親戚に引き取られたか里親に引き取られたかして、このあたりにはもう住んでいないのだろうとCさんは思っていた。
けど、奥さんが本当に悲しそうにしているので、Cさんはそんな奥さんを見ているのが忍びなかった。
12月も中旬に入り、クリスマスシーズンがやってきた。
結局、25日になっても男の子は現れなかった。
Cさんはその日仕事だったが、奥さんのことが心配で早めに帰ろうと思っていた。
と、もうすぐ仕事が終わりという時に奥さんから電話がかかってきた。
「あなた、あの子が帰ってきたの!」
興奮する奥さんの声が電話から聞こえた。
「本当に?よかったじゃないか。プレゼントは渡したの?」
「これからよ。あの子、きっと喜ぶと思うわ。あなたも早く帰ってきてね」
Cさんは上司に断りを入れて、早退することにした。

しかし、急いで家に帰ると、家の中は真っ暗だった。
奥さんも男の子の姿もない。
2人で出かけたのだろうか。
リビングを見ると、大量のプレゼントが山となって積まれていた。
昨日までは、あの白い袋の中に入っていたのに、中身だけがそこに置かれていた。
いくら待っても奥さんは帰ってこなかった。
そればかりか、いくら連絡してみても、電話にも出なかった。
Cさんの奥さんは、その年のクリスマスを境に行方不明になってしまった・・・。

Cさんは警察に相談した。
しかし、家出人の届けを受理されただけだった。
警察の人は、Cさんの奥さんが精神的な問題を抱えていて家出をしたとみなしているようだった。
もちろん、男の子のことも伝えたけど、警察の人はCさんを疑うような目で聞くだけだった。
よく考えれば、Cさんは男の子の名前も知らなかった。

奥さんの行方は一向にわからなかった。
電話を信じるなら、クリスマスに男の子と会ったのは確かだと思う。
そのあとで何かが起きたのだ。
どうして、プレゼントの袋だけがなくなったのか。
それがどうしてもわからなかった。

月日は無情に経っていった。
奥さんが失踪してから、もう3年になろうとしていた。
そして、また、クリスマスがやってきた。
Cさんはクリスマスが近づくと憂鬱になった。
なぜ奥さんはいなくなってしまったのか。
自分は捨てられたのか。
そんなことを延々と繰り返し考えてしまうからだ。
仕事を終え駅に向かっていると、雑踏の人混みの中、Cさんの目がある子供に留まった。
あの男の子だ!
Cさんは人の間を縫って走って、男の子の肩を掴んだ。
間違いない、この子だ。
「私のことを覚えているだろ?妻はどこにいるんだ!」
しかし、男の子はキョトンとしている。
「・・・うちの子が何か?」
母親の声がした。
声の方を見て、Cさんは固まった。
奥さんが立っていた。
名前を繰り返し呼んでも、奥さんは自分のことだとわからないようで、
怪訝そうにしている。
Cさんの剣幕に驚いたのか、奥さんは男の子を守るように腕に抱き、人混みの中に混じって立ち去っていった。
Cさんは慌てて追ったけど、2人の姿は人混みの中に消えてしまった。
けど、Cさんは最後に微かに男の子の声を聞いた気がした。

「プレゼントありがとう、おじさん」

Cさんは悟った。あの男の子はサンタからのプレゼントなどではなかった。
Cさんの奥さんこそが、男の子へのプレゼントだったのだ。
あの白い大きな袋に詰められる奥さんの姿が目に浮かび、Cさんは戦慄した、、、

奥さんと男の子の行方はそれきりわかっていない。

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