JR仙台駅のほど近く。
某全国チェーンのビジネスホテルに泊まった時のことだ。
クライアントとの打ち合わせを終え、ホテルに着いたのは午後9時過ぎ。
たまっていた仕事のメールの返信を片付け、少し休もうと明かりを暗くしてベッドに横になった。
商談で疲れていたからだろう。すぐに眠りに落ちてしまったのだが、、、
カシャッ
突然、シャッター音がすぐ近くで聞こえ、目を覚ました。
スマホのカメラのシャッター音のような機械的な音だった。
眠っている私の頭の上で音が鳴ったような気がした。
私のスマホはベッドのサイドテーブルで充電中なので、私のスマホではない。
安いビジネスホテルだから、隣の部屋の音が聞こえたのだろうと、そう納得して目を閉じた。
再び、眠りにつくと、しばらくして、
カシャッ
またシャッター音がした。
今度は横を向いて寝ていた私の顔の前から音がした気がした。
壁が薄いからこんなにクリアに音が聞こえてしまうのだろうか。
二度目となると少し気持ち悪かった。
しかも、単なる偶然だと思うが、私の顔を追うように正面からシャッター音がなるのが嫌だった。
まるで透明人間が私をモデルに撮影しているようだった。
もうないだろうと寝返りを打って、数分後。
再びシャッターを切る音が目の前で鳴った。
しかも、目蓋の向こうで一瞬フラッシュが光ったような気さえした。
隣の部屋の音なら、今いる部屋の中でフラッシュが光るなんてありえない。
ゾッと背筋が寒くなり、私は飛び起きて明かりをつけた。
一体なにがこの部屋で起きているのか。
わけがわからず、気持ちを落ち着けようとテレビをつけた。
音を隠すなら音の中。
結局、朝までテレビをボーッと見ながら時間をつぶした。
そんな奇妙な出来事も時間とともに忘れてしまうから人間は不思議だ。
私は、仙台での怖い体験をすっかり忘れ、日常の暮らしを送っていた。
ところが、思わぬ形で仙台出張で泊まったホテルでの出来事を思い出すことになった。
ある日、付き合っていた彼女が家に遊びに来たのだが、ついさっきまで料理をふるまってくれて楽しそうにしていた彼女の表情が暗く陰った。
「もう別れよう」
唐突に彼女は別れを切り出してきた。
てっきりうまくいっていると思っていたので、私はびっくりしてしまった。
理由を尋ねると、彼女は私のスマホのカメラロールを表示して突きつけてきた。
ホテルのベッドで寝ている私を正面から撮影した複数の写真データが残されていた。
全く身に覚えがなかった。
けど、逆の立場で、こんな写真を発見したら浮気相手が撮影したと疑うのが普通だ。
こんな写真取ってないと事実を伝えても言い逃れとしか思ってもらえなかった。
けど、本当に覚えがない。
私は、写真をつぶさに調べ、ハッとした。
写っていたのは仙台で泊まったホテルだった。
ようやく、例の怖い体験とカメラロールの写真との繋がりに思いいたった。
あの時のシャッター音は本当に撮影されていたのだ。
そして、その写真データがなぜか私のスマホに残っていた。
いや、残っていたのではなく送られてきたのだ。
写真データをよくみたらベッドサイドテーブルの私のスマホが小さく写り込んでいた。
私のスマホで撮影されたものではなかった。
私は、彼女に、仙台出張で体験した恐怖体験を説明した。
はじめは疑っていた彼女も、私があきらめず何度も同じ説明を繰り返すので、態度が軟化していった。
「じゃあ、幽霊が撮影したってこと?」
「そうなるかな」
いまだに半信半疑のようだが俺の浮気については、してないとわかってくれたらしい。
「こんな気味の悪い写真、消した方がいいよ」
「そうだな」
私は彼女に言われた通り、カメラロールから、仙台のホテルの写真を全て消した。
その時だった・・・
カシャッ
シャッター音がすぐ近くからした。
私は、信じられない思いで、音のでどころを見つめた。
彼女の口の中から聞こえた気がしたのだ。
「どうかした?」
「・・・いや」
私はそれ以上深く追求できなかった。
恐る恐るカメラロールを確認すると、今彼女がいる位置から、スマホの写真を削除している私の姿を写した写真が増えていた・・・
この現象と彼女には何か関わりがあるのだろうか。
それはいまだにわかっていない・・・。
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